第23章 騙し、見抜かれ、騙されて
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「可笑しい」
「可笑しいねえ」
「……もう少し緊張感を持って下さいよォ……」
谷崎がのんびりした返答をする太宰に項垂れる。
取引先の現場に着いた2人だったが。
ガラン……
人も物も見当たらない。
と云うより
「港に向かって車が頻繁に通るから取引には向かないねぇ」
「……ですよね」
完全なる場所の選択ミスだ。
細雪を解除して倉庫の中央で辺りを窺い、状況整理を始めようとした時だった
チュインッ
「「!?」」
2人の足元に、1発。弾丸が着弾する。
「なっ……!?」
「狙撃か」
太宰がフムッと云いながら感心していると
カツン……ッ
「「!」」
人が現れた。
「矢張り、取引に…屋内に来たのは兄の方か」
「……。」
「何…!?」
読まれていた!?
谷崎が驚愕の表情を浮かべる。
「この取引も罠だったとは中々手の込んだ仕込みだねえ」
「貴君は相変わらずだな…マフィア最年少幹部『太宰治』殿」
えェ!?太宰さんッて幹部だッたの!?
更に驚愕する谷崎。
「『元』を忘れないでくれるかい?今は探偵社で身を粉にして働いているからね」
笑顔で答える。
「まあいい。お前さえ殺せれば妹の始末は簡単だからな」
「勝手に後を追ってくれるからねぇ」
「この齢になって未だ共に行動しているとは幸運だったよ」
「離れる気は無いよ、死ぬまでね。まあ死んでも一緒にいる積もりだし」
「そうか。『対黒』は地獄でも変わらないのだろうな」
「そうかもね。あ、そう云えば我々から奪った『機密書類』は何処だい?」
「向こうに。そして此方に狙撃手を、向こうに異能力者を揃えた」
「殺しに専念する気か」
ため息をついて谷崎と背中合わせになる。
「谷崎君。『細雪』で姿を消して向こうに連絡。それから狙撃手を片っ端から片付けてくれるかい?」
「太宰さんは?」
「先程の発砲音を聴く限りサイレンサーを使っている。場所を特定するには発砲を受けるしかない」
「それッて!?」
「私が囮になるよ」
「しかし!」
「大丈夫だから」
ニッコリ笑ってそう云うと、太宰は男の方へ向き直り、歩き出した。
「っ!」
云う通りにするしかない!
―――『細雪』!
谷崎は姿を消すと、指示通り電話を掛ける。
「死ね」
狙撃が始まった