第23章 騙し、見抜かれ、騙されて

―――太宰・谷崎 side―――


「太宰さん……打ち合わせと違うンじャあ」

漸く手を離して貰い、並んで歩く太宰と谷崎。

「探偵社に侵入者となれば盗聴されていることを想定しないと」

「！」

谷崎が目を見開く。

「野外と屋内。奇襲を受ければ各々にリスクはある。しかし、私が野外に出ると告げておいたならば『遠隔射撃』の位置取り等の準備に追われて直ぐには動けない筈だ」

「……で、実際に狙おうとしたら紬さんッてわけですね」

「その通り。私も私で、屋内でならば袋の鼠だと狙われるかもしれないけれど」

「ボクの『細雪』があれば姿を眩ませて逃げ切れる」

「うふふ。相手の狼狽する姿を想像すると愉しいね」

「ハハハ……」

打ち合わせを一切無視して入れ替わる。

段取りが凡て水の泡だが。


まあ、太宰さん兄妹に打ち合わせなンて必要無いンだろうな………


お互いを強く思っている事が先程の会話でも判っている。

羨ましい事、この上ない関係。

「そう云えば」

「ん？」

谷崎が何かを思い出したように話し掛ける。

「ナオミが紬さんに大変お世話になッたみたいで」

「ああ。二人で出掛けてた時の事ね」

「『紬さんと沢山お話ししてきますわ』ッて云ッてたから迷惑掛けてないか心配で」

「ふふっ。紬は楽しかったって云ってたよ」

「それなら良かッたです………でもッ」

谷崎の顔が曇る。

「ああ…強姦事件ね」

「はい……」

フムッと顎に手を当てる。

「紬と一緒で良かったね」

「ほんッとうにその通りです。若しナオミ独りだッたらと思うと………」

谷崎の眼に鈍色の何かが宿っている。

その変化にすぐ気付く太宰。

「谷崎君は、若しナオミちゃんがあのまま汚されていたらどうした？」

「その男達を殺します」

「そう」

咎めもせずにあっさりとした反応を返す太宰。

「ナオミちゃんに対しては？」

「え？」

「今まで通りに接することは出来たと思うかい？」

「……。」

谷崎が考え込む。

シン……

暫く無言が続く。

「そんなに考え込ませる積もりじゃなかったのだけど…ごめんね」

「あ……いえ」

「如何かしたかい？」

「出来たッて断言出来ない自分がいるンですよ」


ハハハ…と力なく笑う谷崎。