第23章 騙し、見抜かれ、騙されて
「……成る程。だからか」
国木田が頭を抱えながら呟く。
「何がです?」
全く何も分かっていない敦が首を傾げる。
「『対黒』について調べたけれど何も出てこなかったのではないかな?」
「!そうです……あ。」
紬がニッコリ笑って云うと、漸く理解できた様だ。
探偵社にある情報は、かなりの質量がある。
情報網も駆使すれば大抵のことを知ることが出来る筈だ。
それにも拘わらず、何一つ得ることが出来ないとなると
「『前職』のお二人のことだったんですね」
『意図的に削除されている』以外に考えられない。
敦の言葉に笑顔だけ浮かべる。
「で?心当たりは?」
「「多すぎて」」
「「………。」」
ですよね、とは云えない敦と谷崎が苦笑し、国木田は長い長い溜め息を着いた。
「……じゃあ何故、片方でいいんだ?」
「「それは直ぐに判るでしょ」」
「判らんから訊いてるんだ!」
激しくツッコミを入れる国木田にやれやれと云う顔を向ける太宰。
「紬が死ねば私も迷わず後を追う」
「治が死ねば私も迷わず後を追う」
「「「!」」」
綺麗に重なる声。
嘘は―――ない。二人の顔は真剣だ。
「だから狙われるとすれば私の方だ」
ニッコリ笑って云ったのは太宰。
「何故?」
「私の『人間失格』は対 異能ならば無敵だが他の攻撃に…例えば銃撃戦なんかに於いては一切、無意味なものだ」
確かに。と敦と谷崎が頷く。
「それに反して私の『終焉想歌』は異能であろうと無かろうと関係ない。触れさえすれば、例えば遠隔射撃を受けようと弾丸が私を貫くことなど有り得ない」
「そうなれば狙いやすいのは私の方だろう?」
「そうなれば狙いやすいのは治の方だろう?」
「「「……。」」」
納得だ。
言葉が出ないほど納得しか出来なかった。
3人が太宰の首や腕の包帯に目をやる。
太宰にあって紬にない包帯。
恐らく、今までもずっとそうだったのだろう。
だからか。
紬の中で傷付ける≒敵 という式が出来上がっているのは。
兄が傷付く事に過剰に反応するのは。
自分の傷までも兄が凡て背負っている様なものだから―――
異常な程、兄が傷付く事に反応していた紬は正常だったのだ。