第22章 2つ兄妹、違いは?
「『終焉ヲ望ム始マリノ歌』」
紬が女にそっと触れた。
次の瞬間
ガクンッ
「「!?」」
その場に崩れ落ちた。
「なっ……」
今まで見たことの無い反応に国木田が小さく声を上げる。
女は崩れ落ちる前の表情のまま動かない。
「何をしたんだ……紬」
「何時もの様に停止させただけだよ。死んじゃあいないさ」
「何時もの?何時もならその場で固まるだけじゃないか。あの男達のように!」
国木田が反論する。
「ああ。それもそうだね」
ふあーと欠伸をすると、くるりと踵を返して部屋から出ていった。
「紬さん!」
慌ててナオミがその後を追う。
パタンと閉まったドアを見てから太宰が口を開いた。
「やれやれ。紬を怒らせたりするから」
「太宰どうなっている。この女は無事なのか?」
「無事だよ。心配せずとも死んでは居ないさ」
「しかしっ…」
「紬の『終焉ヲ望ム始マリノ歌』は触れただけで生物の感覚を凡て停止させる」
「生物の……感覚?」
「我々が普通に働かせている五感凡てを停止させるんだ。今この子は何も見えないし何も聞こえない。何も感じないし、どちらが上なのかも判らない。譬えるなら糸の切れた操り人形と同じなのだよ」
「………。」
「却説、私の依頼はこれで完了した。元々国木田君の仕事だったんだからここの後始末よろしくー」
「まて太宰。何がだ」
「何がって、何が?」
「何が紬の逆鱗に触れた?」
「ああ……国木田君なら分かるでしょ?」
「分からんから訊いて…………」
国木田君なら?
『どうせ兄妹なんて愛し合えないんだから!』
「真逆……」
太宰がニッコリ笑う。
紬に対して、唯一してはならないこと。
兄を傷付けること、だ。
「私は幼き頃からずっと紬を愛してたのだよ?それを愚弄されたと取ったか。或いは、漸く最近になって紬も自覚したと云うのに、その女が水を差すようなこと云ったからか。まあどちらにせよ、そりゃ怒るよね」
「……あの話は本当だったのか」
国木田は頭を抱える。
「あの話ってどの話?」
「お前が毎晩紬に……って聞くな!」
ふふふっと笑って太宰は扉に向かった。