第1章 再会
人通りの多い道を谷崎は歩いていた。
手には買い物袋。食材の買い出しのようだ。
「後はあの店でマドレーヌを……」
「やあ、谷崎君!買い物かい?」
「うわあ!」
突然、脇道からニュッと現れた人物に驚く。
「ふふふ。吃驚したかい?」
「もぉ―…脅かさないで下さいよ、太宰さん。」
ニッコリ笑う男、太宰に溜め息を着きながら返事する。
「今、帰りかい?」
「あ、後はこの店に。」
そういって指差したのはお洒落な外観の店。
「洋菓子か。」
「はい。ナオミにマドレーヌをせがまれまして。」
「本当に仲が良いねえ。」
目的のものを見つけると会計を済ませて直ぐに店を出た。
「そういえば太宰さんって兄弟とか居ないんですか?」
「居るよ。」
「へぇー。お兄さんとかですか?」
「否…。」
太宰の表情が少し曇る。
聞いたら不味かったのかな!?
谷崎が少し慌てる。
「私は双子なのだよ。」
「……へ?」
予想外の返答に素っ頓狂な声が出る。
「つまり、私にそっくりな片割れの妹が居るわけだ。」
「そっ…そうなんですね。一寸、見てみたいです。」
女版、太宰。
想像がつかない。
「私もだよ。」
「え?」
太宰の言葉にピクリと反応する。
「……嘘なんですか?」
「いやいや。本当だとも。」
急にジトッとした目に変わる谷崎。
「いや、何。兄妹喧嘩をしてしまってね。もう4年も行方不明なだけ。」
「大事じゃないですか!」
「そうだねぇ。」
慌てる谷崎に、落ち着きっぱなしの太宰。
「捜さないんですか!?」
「捜さないよ。」
「どうしてです!?」
ナオミと太宰の妹を重ねているのか――。
谷崎の動揺は半端無い。
「待つのが私の役目だからさ。」
「!」
ニッコリ笑って云うと谷崎も漸く落ち着きを取り戻す。
そんな時だった。
ピリリリッ
太宰の携帯電話が着信を告げる。
「おっ!国木田君からだ。」
「…そういえば太宰さん、仕事…。」
谷崎のそんな心配をよそに、嬉しそうに電話に出る。
勿論、その電話は怒鳴り声から始まった。
「そんなに怒らなくても今、谷崎君と社に戻っている処だとも。」
何時も通りの会話。
「……え。今なんて?」
「?」
何かあったのか。
何時も通りではない焦りを浮かべた太宰は急に走り出した。