第1章 再会
穏やかな風が吹く穏やかな日。
丘の上にある墓の前に人影が1つあった。
目の隠れるほど深く被った帽子に、ベージュ色のコートを羽織っている。
その人物は墓に向かって話し掛けた。
「4年振りだね。」
勿論、返事は 無い。
「人生の約5分の1と云う時間を、彼と離れて過ごしてみたのだよ。」
苦笑しながら静かな声で話す。
「でも、矢張り」
「私の方は……傍に居ないと駄目なようだ。」
サアア
風が草木を揺らす。
「何も感じないのだよ。世界が色を失ってしまっている様だ。」
耳を澄ませば鳥の囀りも聴こえる。
「彼は君の望んだ通りに『善の道』を歩んでいるかい?」
それなのに。
突然、風が………止んだ。
「私は君の望んだ通りに『善の道』を歩めると思うかい?」
ザアッ!
「おっと!」
突然、吹いた強風に帽子が飛ばされる。
帽子はそのまま風に乗って姿を消した。
「ははは。」
帽子に収まっていたのだろう。
先程まで無かった一束の髪がコートに掛かる。
「そんなに怒ること無いだろう?冗談さ。」
墓に向かって笑い飛ばす声は女性のモノの様だ。
「却説、そろそろ彼の処へ行くか。」
んーっと背伸びをして、墓に笑顔を向けた。
「行ってくるよ、織田作。」