第22章 2つ兄妹、違いは?
一週間後―――
探偵社には珍しい、私服のラフな格好をした男が顔を赤に染めてやって来た。
まるで一日中泣き晴らしたかのように眼も血走っており、真っ赤だ。
この依頼人の話を国木田が聞いた。
何やら観てもらいたいモノがあると云い、男が映像を見せたところで国木田が太宰を呼んだ。
「太宰、依頼だ」
「うん?国木田君が引き受けるんじゃなかったのかい?」
別に良いけどと云いながら国木田の傍に行く。
音量は極小に下げているが聴こえてくるのは―――
「……これは」
女の喘ぎ声。
「私の婚約者が何者かに集団でっ……」
今にも泣きそうな声で訴える。
紬の云っていた『怨み屋』か?
「彼女は?」
「今朝っ…睡眠薬を大量……病院にっ……意識不明で……」
「……。」
太宰も国木田も眉間にシワを寄せる。
「最近、若者達の間で『怨み屋』と云う連中に復讐を依頼する女性が後を絶たないそうです」
「……『怨み屋』?」
「何だそれは」
依頼人も国木田も太宰の方をみる。
「私も詳しくは知りませんが、女性限定で依頼を受け付ける復讐屋が居るそうなんですよ。その連中が使う復讐の手口と同じなんです」
「!」
女性限定
その単語を聞いた瞬間に男の顔が赤から青に変わる。
太宰がその変化を見逃すわけがなかった。
「なにか女性から怨みを買うような事をしていませんか?」
「……。」
男が黙り込む。
そして
「私の本当の婚約者は…彼女の姉だったんです」
「「!」」
男はポツリと呟いた。
「交際は順調だった。婚約もして結婚について考えているとき……私の目の前に彼女が現れた」
太宰が未だに流れている映像をチラリ見やる。
画面に映っている女性は確かに綺麗な人だった。
―――大抵の男なら虜に出来る程に。
「それで彼女を捨てて妹と婚約を」
「△△は『妹に劣るから会わせたくない』って云っていたんです。今までも『妹の方がいい』と言って振られてきたって云ってました………」
「……。」
国木田は難しい顔を浮かべたまま男の話を黙って聞いていた。
「まあ依頼人をどうこうしても無意味でしょう。知らばっくれてしまえばいいだけの事」
太宰はくるりと踵を反す。
「依頼は強姦魔の捕獲でいいですね?」
「……はい」
返事を聞くと歩き出す。