第21章 縺れた糸が解ける時
スー……スー……
規則正しい寝息を立てて眠っている紬。
その瞼にそっと口付けする。
すぐに離すと微笑んで、ベッド脇の椅子に腰かけた。
「少しは眠れたかい?」
「うん」
眠っていた筈の紬が間髪入れずに返事する。
寝てると思ッてたが、起きていたのか……
医務室のベッドの境はカーテンだけ。
同じ空間に居る与謝野には二人の会話が凡て、聴こえていた。
紬は返事をすると目を開け、太宰の方を見て言った。
「怒ってる?」
「ふふっ。真逆」
太宰は笑顔のまま紬の髪を鋤く。
「と云うことは、治の思い描いた通りになったのか」
「そゆこと」
「一体、如何いう事だい……?」
「「知りたいです?」」
「!」
重なる声に問われ、驚く。
ポツリと呟いた積もりだったが、此方の声も聴こえていたらしい。
肯定の意を述べるとカーテンの内に招かれた。
ベッドに上体を起こしている紬と、その脇に座っている太宰。
「起きてたンだね、紬」
「いや、治が傍に来るまでは本当に寝てましたよ」
ならいいけど……と心配そうに云うと長めの息を1つ吐いた。
「それで?先刻のは如何いう意味だい?」
与謝野が訊ねると兄妹は顔を見合わせる。
「紬はあまり自分の事を話さないから、体調が悪い場合でも相談したりしないんですよ。大抵の事なら気付く自信はあっても、女性特有の身体の不調だけは、如何しても中々に気付いてあげられない」
「……。」
そうか。
『こんなに話すのは初めてです』
先程、紬自身もそう云っていた。
連日連夜、身体を重ねれば流石の紬も体調不良とまではいかずとも睡眠不足くらいは訴えるかも知れない。
―――同性である与謝野に相談する切っ掛けを作るために、半ば強引に行為に及び、医務室に行くよう仕向けたと云うことか。
自分の事を滅多に話さない妹を想うが故に―――。
「紬は何時、この事に気付いたンだい?」
「怒ってないと治が答えた時に」
苦笑しながら答える。
「兄妹で身体を重ねてるなんて非常識的な話を、相談なく他人にするなんて普通なら立腹ものでしょ?」
「確かにそうかもねえ」
与謝野が同意する。