第2章 入社試験
どうしたものか……。
国木田は悩んでいた。
『紬の入社試験を任せる。』
社長にそう告げられてから考えっ放しだ。
あの太宰の妹なのだ。
演技の類いならば直ぐに嘘だと見抜くだろう。
然し、ここ最近で世間を賑わす事件と云えば
政治家の汚職事件と、その情報をハッキングして世間にバラ撒いたハッカーが居るかもしれないと云う根拠の無い噂。
そして、人喰い虎の目撃情報だけであった。
何れも入社試験に相当するような事件では無い―……
演技でいくしかないか……?
「はあ。どうするがっ…!」
突然、襟首を掴まれたため首が絞まる。
犯人は勿論、紬だ。
「何をする!」
「考え事も良いけれど私が止めなければミンチに成っていたよ?」
「あ?」
紬から目線を前方に戻す。
目の前にあるのは車の通りが多い、交差点。
その信号が示す色は赤だ。
「……済まない。助かった。」
「お安い御用だよ、この程度。」
ニッコリ笑う顔は女性にあまり免疫の無い国木田の顔を赤く染め上げる程の破壊力をもっていた。
「っ!」
自分でも自覚があるほど顔が熱を持つ。
思わず顔を反らす国木田。
太宰や他の連中なら迷わず格好のネタにしてからかうところだろう。
「あ、先ずは銀行から行くかい?」
そう云って指差す先にあるのは銀行。
からかわれなかった!?
それとも気づかれていないだけか!?
「えっ…あ、ああ。そうだな。」
そんな考えが先行し、反応が少し遅れる。
「どうかしたのかい?」
「っ!何でも無い!行くぞ。」
ずかずかと歩みを進める国木田に待ってよーと云いながら続く紬。
そして、はたっと脚を止める。
「急いだり止まったり一体、どうしたんだい?」
「何故、『この』銀行だと判った?」
銀行と云えど種類が豊富だ。
実際、ここに至るまでに銀行を3つばかり通り過ぎてきた。
「社長から手渡された通帳を見ていたからね。」
「ああ、そうか。」
抜かり無い観察力。
演技でいくかと傾いていた気持ちが振り出しに戻る。
矢張り、まやかしでは通じぬか……。
溜め息を着いて銀行の扉をくぐる。
「私はソファーで待っているよ。」
「ああ。」
そう云って窓口の方へ歩み寄る。
数分後、国木田の悩みは解決した。