第20章 若し今日この荷物を降ろして善いのなら
―――
皆で探偵社に戻る。
その頃には陽も傾いていた。
「………。」
疲労からか。
倒れてしまっていた芥川が目を覚ます。
ガバリと起き上がった身体に掛けられているのは砂色の外套。
太宰さんが……?
「少しは眠れたかい?」
「!?」
声のした方をバッと振り向くと隣に腰掛けていたのは外套の持ち主……ではなかった。
「白鯨が堕ちて軍警が群がってきたからね。勝手だけど移動させてもらったよ」
「紬さん……」
笑顔を向けて話し掛けてきたのは自分が追い続けていた人物達の片方。
「勝手に通信機を借りたよ。そろそろ迎えも来る頃だ」
「何故、貴女は此処に……」
「考え事をしたくて独りで彷徨っていたら君が見えたからね。大方、目に着かない位置に治が移動させたんだろう」
「……。」
「相変わらず独断専行が多いようだねえ」
「……僕は……」
「ふふっ。私はもう君の上司ではないのだよ?別に咎める気で云った訳じゃあないさ」
「然し、僕の師は何時になろうとも太宰さん達だ!」
「そうか」
フッと笑うと芥川の頭を撫でる。
「少し見ない間に強くなったね」
「っ!」
向けられる笑顔に思わず顔を背ける。
「そして頗る優秀な部下を持ったようだ」
「!」
チャキッ!
「芥川先輩!糞っ!離れろ、探偵社!」
何て連絡をしたのだろうか。
血相を変えて樋口が駆けつけ様に銃を構える。
「止せ樋口!」
「ふふっ」
樋口を慌てて制する芥川をニコニコ笑いながら見ている紬。
芥川の膝にあった兄の外套を取ると立ち上がる。
「紬さん!今こそ僕とっ…!」
「今は身体を休め給え、芥川君」
「!?」
足が動かない!?
立ち上がろうとするもびくともしなかった。
追って来れないように予め仕組まれていたのか!
そんな芥川の傍に樋口が駆け寄る。
「10分もすれば動くようになるよ。じゃあね」
「待って下さい!紬さんっ!」
「……芥川先輩……」
必死に動こうとする芥川を、どうすれば良いか分からない樋口は見ている。
そんな二人をよそに、ヒラヒラと手を振って紬は倉庫街に消えていった。