第20章 若し今日この荷物を降ろして善いのなら
外套を羽織りながら歩く紬の視界に
「……。」
不機嫌な顔を称えて立っている人間が入る。
「もう見付かったのか」
「こんなこともあろうかと発信器を取り付けておいたからね」
「そう。まあ知ってたけど」
四角い機械をポケットに入れると紬の手を掴む。
「帰るよ」
「……嫌だと云ったら?」
「無理矢理でも構わないけど?」
高く積まれたコンテナに紬の身体を押し付ける。
紬を見る目は氷のように冷たい―――
「頭を撫でただけだろう?」
「私とは喧嘩しかしてないのに他の男とは随分仲良くしているからね。腹立たしい事この上ない」
そう云うと乱暴に口を塞ぐ。
何度も何度も。
角度を変えては深く口付けをする太宰。
漸く解放した時には紬は肩で息をしていた。
「最近、治が私に向ける怒りの理由が理解できない」
「『頭を撫でただけ』って云っていたのに?」
「理由は判る。理解できないと云ってるんだ」
太宰の背中に手を回して胸に顔を埋める。
「……判る気はあるの?」
「……判らない。既に治の事が解らなくなってきているから」
「……。」
紬の返事に何も言わず、離れる。
そして手を繋ぐと歩き出した。
「帰ろう」
「うん」
今度は素直に応じて歩き出す。
それから家に帰るまでの間、一言も話すことは無かった………。