第18章 双つの黒
「「中也の躰が保たない」」
「生憎だね。ああなったラヴクラフトを外部から破壊する手段なんて存在しない」
君達に勝ち目なんかない、と云わんばかりに云い放つスタインベック。
「"外部から"?」
「つまり内部からの攻撃は効く訳だ」
「!?」
太宰が懐から何かのスイッチを取り出す。
ピッ……………… ドッ!
ラヴクラフトの身体が炸裂する。
爆発の源は太宰の奪われた元・右腕―――
アアアアアアアア
「本当に効いている様だね」
苦しみもがく様にラヴクラフトが呻き声らしきものをあげる。
意識がない筈なのにそれを見逃さなかった中也が重力子弾を構える。
「やっちまえ中也」
ラヴクラフトが居た周囲のものすらも消し去るほどの爆発が起こった――。
コォオォオォ………
砂煙が晴れる。
其処にラヴクラフトの姿は無かった。
立っているのは中也だけ。
口から大量の血を吐いているが気にも留めていないのか、感覚が狂っているのか。
笑いながら何もない自分の周囲を破壊し始める。
「敵は消滅した。もう休め 中也」
そんな中也の手を握る太宰。
触れたところから元に戻り、目の焦点が合った。
その光景に安堵の息を漏らして二人に歩み寄る紬。ドサッと地面に崩れ落ちる中也に羽織っていた上着を掛けて背中を擦る。
「この……糞太宰……終わったら直ぐ……止めろっつうの……」
ゲホッと血を吐きながら文句を云う中也は紛れもなく何時もの中也。
「もう少し早く止められたけど面白くてみてた」
中也の隣に屈み込んで笑顔で云う太宰に苛立ちを覚える。
「手前を信用して……『汚濁』を使ったんだ……ちゃんと俺を拠点まで……送り届けろよ……」
「任せなよ相棒」
トンッと太宰に拳を当てて云う中也に笑顔で返事する太宰。
それを聞いた瞬間に眠りに落ちる。
「信られない……あのラヴクラフトが……君達は一体」
解放されたスタインベックが太宰たちに寄りながら問う。
「悪い奴の敵さ」
太宰は立ち上がって笑うと、そのまま歩き去っていった―――。
「治」
のを止める紬。ピタリと止まって振り返る。
「ん?」
「拠点に送り届ける約束だろう?」
完全に地面に横になって寝た中也の上着をかけ直しながら兄に云う。
勿論、顔をしかめる太宰。