第18章 双つの黒
ザッ
中也が異形……ラヴクラフトの前に立ち塞がる。
「汝 陰鬱なる汚濁の許容よ」
云いながら手袋を外す。
周りの空気……重力子がそれに呼応する。
「更めてわれを目覚ますことなかれ」
すぅ…
息を飲み込む、否。
周囲の重力子を取り込む中也。
それを黙ってみていた紬が
「………ん?」
後方で蠢く者に反応する。
「っ!」
気配を殺して攻撃を仕掛けてきたのは先程、中也が盛大に片付けた組合の傭兵。
「今は君達に構っている暇など無いよ」
やれやれ、と云いながら蹴りを入れていく。
「治。それもそろそろ目を覚ますかも」
「そうかもね」
中也の短刀を構えながら、紬が「それ」扱いした男に歩み寄る太宰。
太宰が近付いた瞬間、男がピクリと動く。
「う……」
目を覚まして身体を起こすスタインベック。
チャキッ
「知りたいかい。組合の働き蟻君」
「!」
太宰が間髪入れずに短刀を当てながら問う。
「あれが中也の異能の本当の姿だよ」
その右隣に並んで中也の方から目をそらさずに紬が続けた。
中也が地面を蹴り、ラヴクラフトに向かう。
蹴った地面すら抉れる程の破壊力。
素手でラヴクラフトを切りつけ、両手から重力子砲を繰り出す。
それを驚いた様子でみているスタインベック。
ドオオォォン!
「中也の『汚濁』形態は周囲の重力子を操る。自信の質量密度を増幅させ、戦車すら素手で砕く」
紬が説明を始める。
「圧縮した重力子弾は凡百質量を呑み込む暗黒空間だ。但し本人は力を制御出来ず、力を使い果たして死ぬまで暴れ続けるけどね」
「……。」
続けて太宰がする説明を黙って聞いているスタインベック。
「しかし……あれは一体何だい?中也が幾ら削っても即座に再生している」
中也から目を離さずに顔をしかめている紬。
「相棒の君ならあれの正体を知っているんじゃないかな?」
「ふん。さてね……仮に知っていても教える訳ないだろ」
太宰の質問に答える。
「……治」
「ん?何だい?」
汚濁形態に入ってから一度たりとも中也から目を離していない紬が、顔をしかめながら兄の名を呼ぶ。
ツー……
中也が口から血を吐き始めたのだ。
「拙いな」
太宰も異常に気づいた。