第18章 双つの黒
「太宰……腕が」
驚愕の表情を浮かべて太宰の右腕を見る。
綺麗に肘から下が、無い。
立ち上がる為に紬が太宰に手を貸す。
「中也……死ぬ前に……聞いて欲しい事が……」
「な……っ何云ってやがる!手前がこんな処で……」
「はあ。……中也」
「あ?」
ピョコッ
「ばぁ」
無くなった筈の肘から下がひょっこり出てくる。
太宰にツカツカ歩み寄って胸ぐらを掴み、拳を握る。
「怪我の身で戦場に出るならこの程度の仕込みは当然だよ」
「まあ抑も怪我なんてしてなかったしね、治は」
中也は怒りのあまり震えている。
「治も悪戯が過ぎるよ」
「ふふふ。紬は騙せなかったか」
こんな状況でも太宰兄妹は相変わらずだ。
「手品してる暇があったらあの悪夢をどうにかする作戦を考えろ!」
「「いやぁ 無理無理。諦めて死のう!もう残った手は「1つしか無い」しね!」」
意気揚々と云う太宰兄妹。
「1つって……『汚濁』をやる気か?」
「私達が "双黒"なんて呼ばれ出したのは『汚濁』を使い一晩で敵対組織を建物ごと壊滅させた日からだ。私達の援護が遅れれば中也が死ぬ。選択は任せるよ」
「選択は任せるだと?手前等がそれを云う時はなァ……何時だって他に選択肢なんか無えんだよ!」
「この間は私に会った瞬間に『汚濁』使う気、満々だったじゃないか」
「あの時は手前が先に『終焉ヲ叶エル滅ビノ歌』を使ったから使う必要が無くなっただけだ。あの密売組織は初めて『汚濁』をやった時の組織よりも厄介な異能者ども集まりだったんだよ!」
「へぇーそれは知らなかった」
「何?私が知らないところで『終焉ヲ叶エル終ワリノ歌』なんて使ったの?」
「うん。早く片付けて治のところに戻りたかったからね」
「……そう」
「まあ『終焉ヲ叶エル終ワリノ歌』を使ってもいいけど……あの異形に利くとは思えないよ、流石に。今回は汚濁しかないと私も思う」
紬の言葉に顔を背ける中也。
「後で覚えておけ、この陰湿男。腹黒女」
「頑張れ単純男」
「頑張れ中也ー」
「女の敵!」
「双黒(小)」
「あははっ」
「誰が(小)だ!」
文句を言いながらも中也は、ずかずかと元ラヴクラフトへ向かっていく。