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【文スト】対黒

第18章 双つの黒


「疲れた」「眠い」「腹が……減った」
「仕事を済ませて……早く……帰ろう」


「愉快な冗談だなァ オイ。異能じゃねぇならありゃ何だ?」

見れば見るほど人間には見えないラヴクラフトを見据えたまま中也が太宰に問う。

「仕方ない。懐かしの遣り方でいこう」

その問いには勿論答えずに、次の行動の算段をする。

「作戦暗号『恥と蟇蛙』は?」

「はァ?ここは『櫺子の外に雨』か『造花の嘘』だろうが」

「中也。私の作戦立案が間違ってた事は?」

太宰が意地悪い笑顔を称えて中也に問う。

ムスッ

「チッ 糞……!人遣いの荒い奴だぜ!」

作戦が決まり、太宰はニッコリ笑いながらスタスタとラヴクラフトに向かって歩み寄る。


敵……排除して……帰る

その意思をのせた何かが太宰に向かって押し掛ける

ザッ!

その背後から中也が飛び出し、大量の触手のような「何か」を蹴散らすと太宰の肩を踏み台に、一気に相手の間合いへ詰め入る。

ドスッ

中也の拳がラヴクラフトの腹部を貫いた。

「重力 操作」

「!」

ミシ……メキッ

「体が……重……」

「俺の異能は触れたモノの重力を操作する。其の侭朝までへばりついてな」

ズサッ

「「お見事」」

太宰の傍に着地する。

何時の間にか兄の隣で干渉している妹。

「ったく……人を牧羊犬みてぇに顎で使いやがって」

「牧羊犬が居たら使うのだけど居ないから中也で代用するしかなくてね」

「治……」

「手前……」

中也に歩み寄りながら笑って言う太宰と、それを咎める紬。

「手前は性根の腐敗が全身に回って死ね!」

「中也は帽子に意識を乗っ取られて死ねば?」

「はあ……」

再び言い争う二人に、頭を抱える紬。


「眠い……面倒臭い……だが……フィッツジェラルド君との契約は……果たさねば……」

ザッ!

「何か」が太宰の右腕の、肘から下をもぎ取って太宰自身をも弾き飛ばす。

「――――ッ!」

「治!」
「太宰ッ!」 

オオオオオオオオ

最早、何とも言い難い「巨大な何か」へと変貌を遂げるラヴクラフトを見上げる中也と紬。

「こりゃ本気でどういう冗談だよ……?」

「ヒトじゃ無いのかも知れないね」


それだけ云うと兄の元へ駆けていく紬。
中也もハッとして紬の後を追った。
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