第18章 双つの黒
紬の突っ込みは中也に届かない。
「あ……?そうか?」
太宰に言われて歩みを止めて靴を眺める中也。
その横をスタスタと通り過ぎる太宰。
「うん。勿論、嘘。靴も最低だよ」
「手ッ前ェ!」
眺めていた靴……基、右足で回し蹴りを太宰に仕掛けるがサッと避けられる。
「無駄だよ。君の攻撃は間合いも呼吸も把握済みだ」
自慢気に云う太宰。
「加減したんだよ。本気なら頭蓋骨が砕けたぜ」
「そりゃおっかない。ま、中也の本気の度合いも把握済みだけど」
「仲が良いやら悪いやら……」
二人のやり取りを後ろから眺めて溜め息をついた。
「……ほら居たよ。あれだ」
にしても二人が仲が悪いのは私も原因の1つのようだ。
「……。」
何かを考えているらしい紬の足が止まったことに中也が気付く。
「………ぼさっとすんな」
「!」
手を引っ張られて部屋の中に入る。
「………。」
そして、当然、兄と目が合う。
向けられるのは怒りだと判っていた……筈だった。
「具合悪い?」
「!」
中也の手を払い除けると心配そうな顔をして額に手を当てる太宰。
その隣でチッと中也が舌打ちする音だけが響いた。
「大丈夫だよ治。有難う」
「そう?なら良いけど」
「中也も」
「……ふん」
そうしてようやく目の前で大樹に囚われている人物を三人揃って見る。
「木の根を切り落とさないと。中也、短刀貸して」
「あ?あぁ……ん?確か此処に……」
懐をまさぐって短刀を探す。
「中也……」
「あ?何だよ」
懐から目を離さずに紬に反応する。
「あ、さっき念の為掏っておいたんだった」
「手前……」
太宰に苛立ち、隣でクスクス笑う紬に視線をやる。
「知ってたな」
「勿論。だから声を掛けたじゃないか」
その返答に舌打ちしか出来ない。
「さてやるか」
短刀を構えて――
「……止めないの?」
笑顔を絶やすことなくQの首筋に当てる。
「首領には生きて連れ帰れと命令されてる。だがこの距離じゃ手前のほうが早え」
止めに入る気は無いらしい中也は腕を組んだ状態で太宰の行動を観ている。
「それにその餓鬼を見てると詛いで死んだ部下達の死体袋が目の前をちらつきやがる。やれよ」
紬に至っては退屈そうに欠伸をしていた。