第18章 双つの黒
「全く……ここ数年で最低の1日だよ」
「何で俺がこんな奴と……」
「……判っていたけど相変わらずだね」
先程から全く会話が噛み合っていない三人。
スッ
「「………。」」
太宰と中也が同時に小屋の扉に手を伸ばす。
「俺の隣を歩くんじゃねえ」
「中也が私の隣にきたんじゃあないか」
睨み合う二人。
「はあ……子供じゃないんだから」
紬が太宰の袖をツンツンと引っ張る。
「……。」
それに大人しく応じるように下がる太宰。
「いいか?仕事じゃなきゃ一秒で手前を細切れにしてる。判ったら二米以上離れろ」
「あ、そう。お好きに」
太宰がそう告げると中也が扉を開けて、入る。
中には何もない。
床にある扉に気付いて開ける。
「太宰「ペトリュス」って知ってるか」
扉の外にいる太宰と先に入室した紬
「「目玉が飛び出るほど高い葡萄酒」」
「手前が組織から消えた夜、俺はあれの八九年ものを開けて祝った。それくらい手前にはうんざりしてたんだ」
「それはおめでとう。そう云えば私もあの日記念に中也の車に爆弾を仕掛けたなあ」
「あれ手前かっ!」
子供の喧嘩じゃないか……
二人のやり取りを呆れながら聞いている紬。
地下に続く梯子を中也、太宰と降り終わり
「君達は何故そんなに仲が悪いの?」
最後に降りてきた紬が着地しながら訊ねる。
「「………。」」
「………え?何?」
進行方向を向くと二人が凄い顔をして紬を見ていた。
そして同時にフイッと進行方向へ歩き出す。
「あの様子じゃ、手前の躾もたかが知れてるな」
「だとしても中也なんて眼中に無いさ。いい加減諦めてくれない?」
「ほっとけ」
「……何なんだ?一体」
仲が悪い原因なんて山のようにある二人。
然し、その原因の過半数を占める割合で自分が関係している事など、原因分子だけ気付いて居ないのだ。
「はっ。此処まできてあの様子じゃ同情するぜ」
「それは此方の台詞だよ。永遠に振り向いてもらえないんだから可哀想な中也」
チッと舌打ちする中也。
「ああ気に食わねえ。この事だけじゃねえ。太宰の顔も態度も服も全部だ」
「私も中也の全部が嫌いだね。好きなのは中也の靴選びの感性くらいだ」
「思ってないくせに……」