第17章 沈黙の塔、鴉の宴
殺気に反応し、森の連れてきた構成員が武器を構え、福沢に向かう。
「疾いねぇ」
その武器をアッサリと破壊し、森の間合いに入る。
福沢の刀の切っ先が森の首筋を
「……刀は棄てた筈では?孤剣士『銀狼』――福沢殿」
その福沢の首筋を森の手術刃が捕らえる。
「手術刃で人を殺す不敬は相変わらずだな――森医師」
双方が睨み合う。
「相変わらずの幼女趣味か?」
「相変わらず猫と喋っているので?」
お互い嫌味を言い合うと同時に、福沢の姿が揺らぎ消え、
「!」
森の後方に立っていた。
「……立体映像の異能か」
茂みに隠れた谷崎の姿を捉えて呟いた。
「楽しい会議でした。続きは孰れ 戦場で」
そう云うと森は踵を返し、退散していく。
「今夜探偵社は詛いの異能者゛Q゛の奪還に動く」
その一声にピタリと止まり、振り返る。
「……それが?」
「今夜だけは邪魔をするな互いの為に」
「何故」
「それが我々唯一の共通点だからだ――『この街を愛している』街に生き 街を守る組織として異国の異能者に街を焼かせる訳にはゆかぬ」
「組合は強い。探偵社には勝てません」
そして再び歩き出すと、太宰兄妹の前を通る。
「ではまた太宰君達。マフィア幹部に戻る勧誘話は未だ生きているからね」
「真逆。抑も私をマフィアから追放したのは貴方でしょう」
「君達は自らの意志で辞めたのではなかったかね?」
「森さんは慴れたのでしょう?」
「いつか私達が首領の座を狙って貴方の喉笛を掻き切るのではと」
「「嘗て貴方が先代にしたように」」
兄が勧誘を切り捨てるまで黙って聞いていた紬だったが、森の問いに全く兄の声とズレることなく返答する。
「鬼は他者の裡にも鬼を見る。私も貴方と組むなど反対です」
「そうは云うけど紬君は本当はどうでも良いのだろう?」
「そうですね。正直に云えば」
「君だけ帰ってきてもらっても構わないよ?」
「それこそ無理な相談ですよ。『治の居ない』世界ほど無意味で無価値なモノは無い。貴方が治を追い出した時点で私の居場所は其処には存在しない」
「君の兄に対する依存は相変わらず異常値だね」
「今更ですよ。そしてそれは死ぬまで変わらない故」
「……。」
「私も貴方と組むなど反対です」
満面な笑みを作って言い捨てた。