第16章 頭は間違うことがあっても
「はあ。その調子じゃ私と中也が何で仲が悪いかまだ分かってないね」
「反りが合わないのだろう?」
「それもあるけど、違う」
「では分かってないね、考えても分からないから」
「まあいいよ。此れは別に分からなくても。私と中也の問題だから」
「そう」
そんな会話をしていると大通りに出る。
「思っていたよりも酷い有り様だ」
「それほどに執着しているのだろう……『本』に」
兄妹揃ってキョロキョロしながら辺りを窺う。
「治」
「!」
目的のものを先に探し当てたのは紬の方だった。
二人して其方に向かう。
血塗れの状態で人形に必死に手を伸ばす敦の姿。
「「君の勝ちだよ敦君」」
敦が驚いた顔をして見上げる。
「太宰さん……!?」
「君の魂が勝った。これで街は大丈夫だよ」
笑顔で紬が告げる。
「危険です太宰さん!空から敵の銃撃が」
「どうかな?」
今度は太宰が笑顔でそう告げながら何かの機械を取り出す。
ピッ
プシュウウウウ……
謎のオブジェから煙幕が発せられる。
太宰が人形に触れ、消滅させる。
「敦君、肩……」
「駄目」
直ぐに太宰が敦に肩を貸して歩き出した。
「歩きづらい上に治も右手が使えないじゃないか。こんな時くらい」
「駄目なものは駄目」
「ははは……」
隣で何時ものように兄妹喧嘩を始める太宰兄妹を懐かしむような目で見る敦。
煙幕が残っている内に地下に潜る。
「如何して此処が……?」
「敦君が降ってくる方角をずっと探していたからね」
楽しそうに説明する太宰。
国木田に呪いが発動した事を知るまで、ずっと敦を探していたのだった。
階段の一番下まで降りて、腰掛ける敦の足を見る紬。
酷い怪我だ。彼じゃなければ死んでいてもおかしくはないな……。
「取り敢えず足の止血だけしておこう」
「あ、すみません……ってどうやって?」
「ふふっ。触るだけ」
傷口に軽く触れる。
その途端に血が止まった。
「あんまり長く止めるのはお勧めできないからね。早いところ与謝野先生に診てもらわないと駄目だよ」
「…………ハイ」
心なしか敦の顔が青くなる。
「にしても善くやったよ敦君。これでもう横浜は安全だ……と云えれば善かったのだけど」
太宰が複雑な顔をして溜め息を着く。