第16章 頭は間違うことがあっても
「それで?」
「ああ」
先程、感じた違和感――
紬が纏っていた血と硝煙の匂いについて説明を求める兄。
「姐さんの部隊から奇襲を受けてね」
「人数は?」
「7人。こんな事態だ。指示が出たわけでなく独断で来たんだろうね」
「そう」
ペタペタと紬を触りながら話を聞く。
「怪我などしてないよ?」
「してたらあの時点で身ぐるみ剥いで確認した上で与謝野先生に診せてる」
「容赦ないね」
ふふっと笑いながら話す。本当に怪我が無いと判ったのか紬の衣服を正して歩き出した。
紬もそれに続く。
「強いて云えば腰が痛い」
「それは自業自得でしょ。反省したまえ」
「もう十分反省したと思ってるんだけどねえ」
「足りない」
「あ、そう」
溜め息をつく紬。
「それで?私はマフィアと手を組むなんて反対だ。しかし、敦君に『そう提案するように』仕向けるのだろう?」
「うん。マフィアと同盟を結ぶ利はあるからね。それに、彼等が手を組む事が此れからのために必要だから」
「それに関しては賛成だけど」
「不満かい?」
「いや、手配しておくよ」
今の話だけで兄の想定をきちんと理解している紬。
「宜しく。ああ……でも」
太宰が歩みを止める。
「交渉には姐さんを遣ってよ」
「………。」
太宰の言葉に顔を歪め、
そして
「!」
兄の胸ぐらを引っ掴み、引き寄せるとその口に自分の口を重ねる。
「あんまり疑うと拗ねるよ」
口を離すとムッとした顔で太宰に云い放つ。
その顔、その仕草に太宰は満足そうに笑って、抱き締めた。
「ふふっ漸く解ってきたようだね」
「?」
直ぐに紬を離すと何事も無かったかのように歩き出す。
紬も数歩遅れて兄の隣に並ぶ。
「何が?」
本人は何も解っていないらしい。それでも笑顔を絶やすことなく機嫌が良い兄は妹の頭をひと撫でする
「今みたいに怒りも不満も悲しみも、紬の抱く感情すべて私にだけ向けていれば良いよ」
「そんなこと口走っていたら、その内困るのは治だと思うけど」
「中也に話される方がよっぽどだ」
「本当に仲が悪いねえ」
やれやれと云う紬を横目で見る太宰。