第14章 ウィル・オブ・タイクーン
「で?旧交を温めるのが目的でないならご用件は?」
安吾の指摘に太宰は目の前の車に近付き、ぽんぽん触る。
「いやぁ流石に宮仕えは善い車だねえ」
「指紋がつくのでやめてください」
「ドライブしない?」
愉しそうに車を扱うと、目的を告げた。
―――
「成程。北米異能組織『組合』の暗躍ですか……」
「そ。異能組織犯罪を取り締まるのが特務課の御役でしょう。職務怠慢は善くないなぁ」
「……。」
お付きの二人は置いてきたのか、安吾の運転でドライブをする太宰。
「組合の行動は我々も把握しています。」
「!」
安吾の言葉に大きく反応する。
「知ってて……放置してたって事かな?」
「太宰君と違って僕は勤労の徒ですから。抑も太宰君は組合が如何なる組織かご存知ですか?組合とは一種の“秘密結社”です。構成員は各が表の顔を持ち、政府・大企業の要職にある者も名を連ねています。その影響力は北米は疎ろか本邦中枢にまで強力に食い込んでいる。」
「おいおい……頼むよ。話の流れが怪しくなってきたじゃないか」
「『政治』ですよ太宰君。連中は外交筋から圧力を掛け、構成員に外交官同等の権限を賦与させました。もはや彼等は法の外の存在。法執行機関は組合を勾留すら出来ません。我々特務課も他庁との権力均衡の中で身動きが取れません。この会合も恐らく連中の監視下です。」
ここまで言い切ると安吾は車を停車させる。
「太宰君逃げて下さい、今直ぐ。そして伝えて下さい。」
そう告げられ安吾の方を向く太宰。
しかし、太宰の視界により強く入った光景は安吾の深刻な顔ではなく――
「貴方の部下に危険が……」
ゴシャアッ
自分達の乗車している車に衝突を目論む車だった――。
車が突っ込んできてから直ぐに護衛に来ていた2人が駆け付けた。
「貴方の方は怪我は?」
幸いにも助手席側だった太宰は運転席側の腕……右腕を押さえて首を横に振った。
「私より安吾が。急ぎ給え」
太宰の言葉でハッとした2人は直ぐに安吾を病院に連れて行ったのだった。