第14章 ウィル・オブ・タイクーン
「ただいま」
家に戻って手短に挨拶を済ませると直ぐに風呂場に向かう太宰。
「思っていたより早かったね」
シャワーを終えて居間に入ってきた事に気付き、声を掛ける太宰、兄。
「帰宅がかい?それともシャワー?」
「帰宅がだよ」
髪をタオルで拭きながら兄の横に座る妹の腕を取り、強引に引き寄せる。
「褒められこそすれど、怒られる謂われは無いが」
「話は終わってなかった筈だけど?」
「ああ……すっかり忘れていた」
中也と対峙したこと。
太宰が苛ついている理由を思い出し、溜め息を着く紬。
「タクシー拾うのが面倒だったから治のところまで送ってもらっただけだよ」
「それが気に入らないって云ってるんだよ…まだ解らないの?」
困った妹だ、と云われながらそのまま組敷かれて今し方、身に纏ったばかりの服を剥がれる。
抵抗は勿論しない。
「こんなことしてる場合じゃないでしょ?」
「知らないよ、そんなこと」
止める気が一切無い事を確信した紬は、これ以上は何も云うことなく兄に従うことにしたのだった。
―――
「敦君が行方不明ねぇ」
「待ち合わせの場所に組合の長が居たから恐らく組合に拘束中だよ」
ひとつ布団の中で情報交換をし始める。
腰に回されている腕からして解放する気は無いらしい兄に寄り添いながら考え込む妹。
「中々頭が切れる参謀が居るようだね」
「その様だね。それで其方は?」
「予定通りだよ。右腕を負傷したことにしてきたから明日キッチリ包帯を巻いてあげよう」
「……。」
ふふっと笑って告げる紬の方を急に向き、右腕を触り始める。
「本当に怪我してきた訳じゃ無いよね?」
「冗談。車なんか指ひとつで止められるって云うのにどう怪我すれば良かったんだい?」
「安吾の前で終焉想歌を使うわけにはいかなかっただろう?」
一通り確かめて怪我がないことが判ると安堵の息をつく。
「心配性だよ、治は」
「そうでもないのだろう?私は紬が思っているよりも紬の事を思っていないらしいじゃないか」
「!」
太宰が冷たく笑う。
「中也の云う通り、大莫迦だねえ紬」
中也と治が会って話をするなど、今の段階では考えられない。
となると………。