第14章 ウィル・オブ・タイクーン
「それで?」
「ん?」
兄妹水入らずで歩く道中。
暫く無言のせいで出来た静寂を先に破ったのは兄の方だった。
「先刻。何か云い掛けたでしょ」
「ああ……あれね」
妹が兄に応じる。
「異能特務課……安吾を利用するんだろう?反対しようと思っただけだ」
「へえ。しないの?反対」
反対される事を予め予測していた様に訊ねる。
「して欲しいのかい?」
「いや。紬の代案は探偵社の意には反するから遠慮したい」
「云うと思ったよ」
反対と合わせて代わりに提示されるであろう案を想像して、断る太宰。
「治が策の清濁に拘らないと云ったのに」
「十分、拘らない手段に出てる積もりだよ」
「ああ、そう。ならいい。これ以上、意見する気は無いよ」
やれやれと云わんばかりに息を吐く。
そして、鋭い目を兄に向けた。
「但し」
「判っているさ………」
紬の話を聞く前に太宰は溜め息を着いて、答えた。
―――
待ち合わせの場所。待ち合わせの時間。
とある駐車場で太宰は独りで待っていた。
ブロロロロロ……
車の音にピクリと反応する。
来たか。
一台の車が目の前で停車する。
「何年振りですかねぇ太宰君。」
そう言いながら車から降りてきたのはスーツの男。
護衛か、只のお付きか。
男女二人も下車してくる。
「連絡を貰った時は驚きましたよ。」
「やあ安吾!元気そうじゃあないか!」
太宰は満面の笑みでスーツの男、坂口安吾に両手を広げて近付き―――
ジャキッ
安吾が携帯していた拳銃を奪い取り頭部に突き付けた。
「善く来たねえ安吾。如何して思ったんだい?私が君をもう許していると。」
向けるは冷たい笑顔。
「マフィアを抜けた貴方の経歴を洗浄したのは僕ですよ。借りがあるのは貴方の方では?」
「……。」
拳銃を突き付けている太宰を、一緒に来ていた男と女が銃と刀で捉える。
「判ったよ。」
降参したのは太宰の方だ。
「どうせこうなることを予期して弾を込めてないんだろう?」
「ご理解が早くて助かります。」
安吾がニッコリ笑って銃を受け取ると、二人の構えも解かれる。