第1章 再会
太宰の暮らす寮の部屋に入る。
薄暗い部屋の中。
見らずとも判る散らかり様に呆れて話し掛けようと兄の方を振り向く。
「相変わらずの散らかし振りだね、おさ…っ」
嫌味を言うために開いた口を、太宰のそれで塞がれる。
「……んっ……。」
抵抗する積もりは全く無いのか。
大人しく行為が終わるのを待つ紬。
何れだけの時が経ったか――。
解放したときには真面に立つことすら出来なかった紬を担ぎ上げ、敷きっぱなしの布団の上に置く太宰。
紬を見ている眼は、氷のように冷たい。
「今まで何をしていたんだい?」
「何も。」
答える紬は未だ肩で息をしている。口許は笑っているが兄同様、眼は鋭い。
「何処に居た?」
「北は北海道、南は九州まで巡っていたのだよ。」
紬の洋服の鈕に手を掛けながら質問を続ける太宰。
「何故、黙って居なくなった?」
その声は怒りの色に染まっている。
「治が選んだのだろう?その様な眼を向けられる謂われは無い。」
「私が?」
「真逆、心当たりが無いとでも云う気かい?」
「無いね、全く。」
「私達の経歴がそう易々と消せるわけ無いことなど判っていた事ではないか。」
「だから地下に潜った。然し、」
「『離れる必要は無かった』?冗談だろう」
鼻で笑いながら太宰の言葉を否定する。
「………。」
「『対黒』とまで呼ばれていたのだよ?共に居れば消えるものも消えない。」
太宰は何も言わずに紬の話に耳を傾けている。
然し、服を剥ぐ手は止めない。
「そして私は治ほど温くはない。特務課も信用など出来ない。安吾の件もあるし。」
「そうだね。」
「違う方法を考える積もりだったけれど、治は直ぐに動きたかったのだろう?」
「そうだよ。」
その言葉に紬の顔が曇る。
「………何が云いたい?」
「………。」
紬の顔に手を添える太宰。
そうか……私か。
此処まできて、漸く次に紡がれる台詞が判った。