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【文スト】対黒

第1章 再会


「私より織田作を優先したことに嫉妬しただけなのだよ、本当は。只、それだけだ。」


予想通りの答え。


織田作は大事な友人だった。

それは勿論、紬にとっても同様だ。


然し、それはそれだ。


愛とか恋とか、この兄妹の間には存在しなかった。

そんなものを遥かに超えた存在。

隣に居て当たり前。

互いの凡てを知っていて当たり前。

世間の事など気にもせず、
挨拶の様に唇を重ねることもあれば、恋人の様に身体を重ねることもある。

常に唯一で、常に絶対だ。


それを太宰が違えたのだ―。


もし、紬が違えたならば。

自分の傍に拘束した上で監禁し、行動を制限する事を平気で行う兄。

その兄に対抗して姿を消したのだ。


「紬」

束ねていたゴムを外し、優しく髪をかき揚げて名前を呼ぶ。

「捜した。」

「うん。」

「動ける範囲で可能な限り、ずっと。」

「うん。」

「探偵社に入ってからもだ。」

「成る程。社長には告げていたのか。」

「中り。」

フッと笑う太宰。

「離れてみて判ったよ。」

「!」


『離れてみて判ったよ。』


織田作の墓の前で話していた言葉が脳内に浮かぶ。

「矢張り、私は……」

『矢張り、私の方は……』


「君の傍に居ないと駄目なようだ。」

『彼の傍に居ないと駄目なようだ。』


治も一緒だったのか。

そう思った瞬間に溢れる笑み。

「そんなにかい?」

「そんなに、だ。何も感じないのだよ。世界が色を失ってしまっている様だ。それは……」

紬の首筋に口付けを落とす。

「……それは?」

紬も太宰の首に手を回す。

「織田作を失ったこととは、比べ物にならない程にだよ。」

「そうか……。」


首筋から唇を離すと、鼻と鼻が触れそうな距離まで顔を上げる。


「「それにしても。」」

紡いだ言葉は矢張り同じ。

この言葉に先程の怒りなど、全く無い。


「実兄に淫行に及ばれながら抵抗の1つもしないなんて困った妹だねえ。」

「実妹に発情して、布団に連れ込んで淫行に及ぶなんて困った兄だねえ。」


浮かべているのは妖艶な笑み。


「「もう離れはしないよ、二度とね」」


月明かりに映されて出来ていた影が、重なる。


こうして四年越しの兄妹喧嘩は幕を下ろした。
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