第13章 Q
「治は優しいから」
「紬が太宰以外に関心が無いせいなだけだろ」
「あー……そうか。そうかもしれないね」
「そうかもしれないって……」
「中也に指摘される今まで自覚がなかった」
「………お前、大概の莫迦だな」
はぁー。と溜め息しか出ない中也。
「私ばかりで狡いな……治は」
「いや、太宰の野郎も大概だろ」
「え?」
「………。」
キョトンとした顔で見つめる紬の顔を見て悟る。
自覚が無いのか……ホント面倒臭ェ
敵、味方問わずに冷酷非道な事を平然とやってのけれる紬を、『自分と同じ側に置いておくために』姐さんの尋問を兄が行ったとは考えられないらしい紬に呆れる他出来ない中也。
「また盛大に兄妹喧嘩でもしてろ」
「酷いなあ中也は」
ブーブー文句云いながら抗議する紬。
何時もの調子の紬、だ。
それを確認したのと同時に目的地が視界に入り、車を停車させる。
「駅?」
停まった車中から見えるのは1つの駅。
「首領がQを座敷牢から解き放った」
「!」
紬の顔が少し険しくなる。
「……この駅に着く列車に乗ってるってことか」
「そういうこった。早く降りろ」
「ふむ。事態は思ったより深刻だねぇ……有難う、中也」
しっしっ、と手をヒラヒラさせる中也に律儀にお礼を云って車を降りる。
1度も振り返ることせずに歩き去る紬の姿を見届ける。
「何がしてえのか判らねぇのは俺の方か」
他に誰も居ない車中。
その呟きは妙に響いて、消えていった。
―――
列車の走る音が響く駅のホーム。
「………一寸遅かったか」
砕けた柱に、踞る見知った人物の姿を捉えて紬は呟いた。
走り去る列車を見送る太宰に気付き、歩み寄る。
太宰も紬に気付いたようだ。
「私も策の清濁に拘ってる場合では無い……か」
兄の呟きを黙って聞く紬。
「其方は?」
「マフィアに拠点が割れて奇襲を受けた。そうなれば彼処に居ても意味がないからね。今頃、皆で探偵社に戻ってる筈さ」
「………中也?」
「何で判ったの?」
「奇襲を受けたとして此方に合流するまでが早すぎる」
「成る程ね」
兄の推理に納得して敦の方を向く。