第13章 Q
「まだ話は終わってないけど」
「その話は家に戻ってからがいいんだろう?」
「……。」
何を云われるか等、手に取る様に判る。
そう言わんばかりに言い切ると再び敦の方を向く紬。
太宰も否定しないところをみると紬は正論を述べたようだ。
「敦君、顔を上げて」
「………。」
兄の隣で敦に話し掛けるも反応がない。
やれやれと、ひと息着いて1歩踏み出そうとした紬の手を取る太宰。
「………。」
鋭い目で紬を睨み、制止して自分が一歩前に出る。
「やれやれ」
そんな兄の姿を見て、今度は思ったことを本当に口に出す。
紬がしようとしていた行動を阻止したかったのがあからさまだ。
「行くよ敦君。」
「……。」
矢張り反応がない。
「立つんだ」
敦に歩み寄り、屈む。
「駄目だ……僕は駄目だ……僕は居ちゃいけなかったんだ……」
まるで呪いの言葉の様に泣きながら呟いている。
「敦君」
パンッ!
顔を上げない敦の名を呼び、敦の頬を叩く太宰。
その光景を黙ってみている紬。
ああ、そうか。
『彼』に似ているんだね―――敦君は。
だから引き受けたのか。
「君から過去を取り上げる権利は私にはない。だが偶には先輩らしい助言でもしよう」
敦は顔をあげる。
「自分を憐れむな。自分を憐れめば人生は終わりなき悪夢だよ」
「……。」
太宰の言葉に漸く思考が動き出したのか立ち上がる。
「さあ、そろそろ反撃といこう。こちらも手札を切るよ。三百ある中で一番刳い鬼札をね」
「!」
太宰が場を切り替えるように告げる。
その言葉に過敏に反応したのは紬だ。
「まっ……」
『私も策の清濁に拘ってる場合では無い……か』
先程呟いていた兄の言葉が紬の脳内に反芻する。
止める積もりで声を発したが、止めた。
「如何かしたかい?紬」
「いや……今はいい」
太宰はそう?と言うと
「あの……」
声を掛けてきた敦の方を向く。
「一体どんな札なんですか?」
二人のやり取りを一通り見終わった敦が質問すると太宰はニッと笑って、答えた。
「この戦争に政府機関を引き摺り込む。」