第13章 Q
「『約束』も……私にとっては小さいことだったのだけどね……」
「あ?」
『人を救う側になれ』
大切な友人が死際に二人に告げた言葉―――。
太宰が探偵社に入社した理由で、紬が姿を眩ませた原因。
生まれて初めての大喧嘩に発展した『約束』のことを思い浮かべる紬。
決して反対ではなかった。
然し………
「私は治の中に在るのに……私の中には治は居ないようだ」
「はあ?」
タイミングよく赤信号だ。
小声で呟いた紬の方を観る。
「おい……」
浮かべているのは泣きそうな顔―――
「まあ、この件に関しての喧嘩は既に終わったんだけどね」
パッと普段通りの紬に戻るのを見てからかわれていた事を悟る中也。
「手前ェ………」
「ふふっ。」
前を指差しながらケラケラ笑う紬に苛立つ。
今度はタイミング悪く、青信号に切り替わった。
「中也は私に甘いのだよ」
「チッ……………仕方無ェだろ」
「………。」
仕方無い……か。
紬は苦笑する。
「今度、姐さんに女を見る目を鍛えてもらった方が善いよ」
「余計なお世話だ」
舌打ちして続ける。
「そう云えば………姐さんは手前ェ等のところか?」
「うん」
「……隠す気無ェのかよ」
「判ってて訊かれる言葉を否定するのは面倒だから」
ふふふと笑いながら続ける。
「大人しくしているよ。治と何かを取引したようだね」
「珍しく曖昧な言い方だな…」
「治に下がるように云われたからね。取引現場に居合わせなかった」
「………。」
俺が接触してくることを見越して情報を遮断したか、
或いは……
「私が尋問しても良かったのだけどね」
昔の紬の様子が脳裏に浮かぶ。
太宰も大概だが、紬が尋問した人間はそれ以上の絶望を抱いて―――死んでいった。
ただ妹を守るためだけに独りで行った……か。
紬の発言からして、この両方が故なのだろう。