第13章 Q
「却説、治は今何処に居る……」
「紬」
地上に出てうーんと考え込む紬を呼び止める1つの声。
「中也」
予想通りの声の主を視界に捉えて振り返る。
「伝言人の任は終わったのかい?」
「終わってねーから手前を呼び止めたんだろうが」
心底嫌そうに一息つくと紬の横を通り過ぎて行く。
その先に在るのは一台の車。中也の愛車だ。
「………。」
紬は数秒、止まってから中也に続き、
「序でに治のところまで送ってくれない?」
「タクシーじゃねぇよ!」
笑顔で車に乗り込んだ。
「それで?」
「あ?」
暫く車を走らせてから紬が続きを促す。
「伝言人の任を終えてない件について」
「あー。そうだった。首領から手前にだ」
「うん」
中也は前を向いたまま続ける。
「『マフィアの幹部に戻る気はないかね?』」
「ふーん。まだ私達の椅子が空いているのか」
「………。」
その一言に中也が顔を歪める。
その顔をチラ見して肯定の意として受け取る紬。
「私は治が居るところだったら何処でも構わないのだけどね」
「ホント、相変わらずな返事だな」
「判ってて伝言を持ってくる方がどうかしてると思うよ」
ふふっと笑うと窓の外を眺める。
「故に、戻らないよ」
「今頃、彼奴にも同じ伝言がされている」
「そう。でも私は今の言葉を覆したりしないよ。私が治の意思を違えて汲み取るわけ無いだろ?」
「………。」
会話など無くとも、同じことを同じ様にやってのけれる程だ。
この双子の思考回路は同じ作りなのかもしれない。
或いは1つの脳を2人で共有しているのか――。
ハッキリと言い切る紬の言葉を否定することが出来ない中也は、その理由を身を以て知っている。
「何より……治が私の意見よりも優先して継いだ意志だ。そう易々とは変わるまい」
「お前の意思は何処に在るんだよ」
「治の中」
「意志もか?」
「そうだよ。暫く離れてみて判ったけど私の中には何もなかった」
「そうかよ……本当に面倒臭ェな手前等は」
心底呆れながら舌打ちする。
そんな中也を笑ってみて、直ぐに窓の外に視線を移す。