第11章 三社鼎立
「俺は未だに師匠から一本も取れん」
「国木田君の師匠は社長だったか……それよりも」
ぼそりと呟きながら国木田と敦のやり取りを観ている紬。
「十把一絡げの刺客にあの人が負ける筈がない」
「このタイミングで奇襲……か」
紬の呟きを拾うものは居なかった。
―――
社長指示で調査員が集まっている場所は旧晩香堂。
「社長」
足音に気付き、敦がその人物の方をみる。
入ってくるや否や、社長…福沢は直ぐに口を開いた。
「皆聞け」
全員が福沢を注目する。
「嘗て――三日か二日前には戦争を免れる途は在った。しかしその途も今や閉ざされた。社の鏖殺を謀るマフィア、社の簒奪を目論む組合。その両雄より探偵社を守らねばならぬ」
社が置かれた今の現状と、今からすべき事を簡潔に述べる。
「太宰、説明を」
「はあい」
太宰は指名を受け、軽い調子で返事する。
「組合は資金力に、マフィアは兵の頭数に優れます。正面から搗ち合えば探偵者と雖も脳天が弾け飛びます。そこで我々は人員を守勢と攻勢に分割し奇襲戦法で姑息に抗います。」
「姑息に、ねぇ」
そんな兄の説明途中に小声で口を挟みながら聴いているのは、恐らく紬だけだろう。
「守勢の要は何と云っても此処で与謝野先生を守る事。先生の治癒能力があれば死なない限り全快出来ますからね。嬉しいかは別にして」
あははと笑いながら云う太宰に釣られて賢治も笑う。
が、他のメンバーは顔を歪めていた。
守勢――福沢・乱歩・与謝野・賢治
「そして攻勢は二組に分割」
攻勢「甲」国木田・谷崎
「谷崎君の隠密能力と」
攻勢「乙」太宰・紬・敦
「私の異能無効化で敵の横あいを叩く」
「………。」
太宰の説明を一人を除いて真剣に聴いている。
除かれた一人は顎に手を当てて何やら違うことを考えていた。
「何に重点を置く心算だい?」
「今からそれを云うつもりだったのだよ」
紬の質問に治が息を吐きながら答える。
「この戦の肝要はこの拠点を隠匿する事です。敵の異能者総出で此処に雪崩れ込まれると守勢が保ちませんから。何か質問や意見はあります?」
ニッコリ笑って告げた太宰に手を挙げたのは誰も――………
「はあい」
「!」
全員の視線が手を挙げた人物に集まる。