第1章 再会
「失礼します。社長、連れてきました。」
「入れ。」
社長室に通される。
「太宰。」
「「はい。」」
「……。」
そうだった。
二人とも太宰だったと思う、国木田と福沢。
「妹の方だ。」
「ああ。紬とお呼び下さい。女は姓が変わる可能性がある故。」
笑顔でそう告げる紬。
太宰が一瞬、鋭い眼で紬を睨む。
「うむ。では紬。」
その事に気付かなかった福沢は続ける。
「率直に云おう。採用だ。今日より我が探偵社の調査員として働いてもらおう。」
「調査員?私は事務員を希望していたのですが……。」
此処まで云って、隣に立つ人物に視線を移す。
「……謀ったな、治。」
「珍しいじゃあないか、紬が騙されるなんて。」
紬の睨みを鼻で嗤って払い除ける。
「太宰は云った。『紬は調査員の方が向いてますよ』と。確かにそうなのだろう。現に、お前の片割れは頗る優秀だ。」
「買い被り過ぎですよ。兄の様に動けるか、私には自信が有りません。」
「この満点の答案でもか?」
「勉学など勤しめば誰でも身に付けられる知識。自慢する程ではありません。」
「ふむ。」
福沢は太宰に視線を寄越す。
想定していた範囲内なのだろう。
だから太宰も連れてくるように指示をしたのか――。
国木田は黙って三人のやり取りを見ている。
「紬。」
「何だい?」
紬が太宰の方を向く。
その表情は、無い。
「約束だろう?」
「!」
兄の言葉に眼を伏せる紬。
『人を救う側の人間になれ』
つい先刻、会ってきた人の顔が浮かぶ。
織田作―――。
「………。」
なんの事かサッパリ判らんが。
二人にしか判らない約束でもあるのだろう。
太宰のたった一言で、反論を止めて眼を伏せている紬を国木田は見ていた。
他の二人も紬の返答を黙って待っている。
眼を閉じてから約2分。
「社長。」
漸く、眼を開けた紬は
「どうぞ宜しくお願いします。」
深々と一礼して、言った。