第10章 連続爆破事件
昨日―――A.M.1:30
愛車に乗って帰宅をする道中の中原中也は、何時も以上に周りを気にしながら運転していた。
「!」
そして目的のモノを見付けると直ぐ傍で停車する。
「!」
助手席の窓を開け、云った。
「乗れ」
「流石、中也。態々お迎えご苦労様」
ニッコリ笑って太宰は助手席に乗り込んだ。
「で?」
「ん?」
「何時までアイツの振りしてんだよ気色悪ィ」
「ああ。」
声が急に高くなる。
「何時から気付いていたんだい?」
髪を掴み、引き下げると元の長い髪が落ちてきた。
「視た瞬間」
「矢張り、中也は騙せないか」
ふふっと楽しそうに笑うのは太宰ではなく妹の紬だった。
「で?頼みは?」
「治を何処かのホテルに移す」
「はあ?そんなの手前ェ等で勝手に行け」
「そういうわけにもいかないのだよ。治は今、意識不明の重体だ」
「は?」
太宰の糞野郎が重体だあ?
信じられねぇと言おうとして、止めた。
「お前もか?」
月明かりに照らされる紬の顔があまりにも白かったからだ。
「私は貧血なだけさ。怪我などしてないよ」
笑顔を作ってみせるが何時もの覇気は無い。
恐らく血を提供したんだろう。
それも限界値まで。
よく見ていた光景と重なる。
しかし、だ。
どんなに大怪我を負ったとしても太宰が意識不明の重体になったことなど
今まで嘗て一度たりとも、無い。
「はぁ…何で俺が」
「私に貸しなど作るからだよ、中也」
「チッ」
反論は出来なかった。
運転しながら先程の事を思い出す。
異能力組織相手だったから多少の損害は覚悟していた中也だったが
「……。」
久々に『双黒』って云われたぜ…
難なく片付いたのは紛れもない事実。
「でも何で太宰を動かす必要があんだよ」
「相手が治の『人間失格』を恐れているようでね」
「だから太宰の格好で彷徨いてんのか?」
「そう。しかし、相手も中々頭が切れるようでね。治が重篤だと知っているのだよ」
「……つまり動き回っていても病院に帰るのを見越してるってことか」
「そゆこと」
欠伸しながら答える。
「看護師の巡回パターンからして狙われるとするならば朝の6時半頃。起床時のバイタルチェックに追われて手薄になるからね。その前に運び出したい」