第5章 本丸
三日月「数刻前、審神者と死合った。
勝敗は着かず終いだったが・・・中々腕の立つ娘だったぞ」
小狐丸「娘、ですか。
・・・見た所、傷が増えていますが・・・」
三日月「ん?ああ、これか。
なに、物理的な外傷ではない。・・・霊力をな、油断した隙に当てられてしまった。あれはさすがの俺でも防ぎようが無くてな。
年甲斐も無く壁まで飛ばされてしまった」
小狐丸「天下五剣とあろう貴方が、油断をしたのですか・・・。それはまた、世も末ですねえ」
三日月「はっはっは、それは言ってくれるな。
・・・しかし、ただ大きな霊力をその身に宿しているだけなのだとしても見事な春の景趣へと変えてくれるとは・・・」
朝まであった廃城のような風景がまるで嘘のように変わった本丸。
・・・いや、いくらか語弊がありますね。
私達刀剣がこの地の霊力へと引き寄せられるようにして棲みつき始めてから、ここは廃城の有り様だった。
・・・それがよもや、審神者の霊力でここまで一瞬で変えられてしまうとは・・・。
小狐丸「・・・夜となった今でも、減る事なく舞い落ちてはまた枝に花弁が咲く・・・審神者の霊力とは不思議なものですね」
三日月「・・・・・・いや、霊力だけではない。
ただ単に霊力を御神木に込めただけならば、結界が上書きされ張り直すだけになった。・・・だが、あの審神者は本来の目的である結界・・・それだけでなく、景色や本丸の構造と言ったものまで景趣変更した・・・」
あの娘・・・今まで俺達の主となった審神者とは何かが違うのだろうな。
その言葉には何も返さずに、私は膝に落ちてきた花弁を見つめていた。