第5章 本丸
すっかり見慣れてしまっていた、廃れた本丸が一変した。
それは私達刀剣男士を心身ともに追い詰めた、あの憎き審神者の霊力が原因らしい。重傷や果ては破壊されたままになっている刀剣が集まるこの本丸では到底見る事が出来ないだろうと思っていた、春の花々が中庭や縁側の外に咲いたのだ。
一番驚いたのは、御神木だ。
枯れかけの古老木だったのに・・・桃一色の桜が咲き乱れている。
小狐丸「まさか・・・この場所で桜が見れるとは、思いもしませんでしたね・・・」
あまりにも唐突な出来事だった為か、あまりにも見事に咲き誇る桜に目を奪われてしまった。
審神者やその近侍が数刻前に立ち去った中庭が見える縁側に座り、ただぼうっと桜の木を見上げていた。
そしてどれくらい時間が過ぎたのかは明確には解らないが、不意に三日月から声をかけられた。
三日月「・・・小狐も桜に見蕩れる事があるのだな」
小狐丸「三日月。
・・・・・・そんな見蕩れる程立派な桜を御神木に咲かせられ、新たな審神者に結界をまんまと張り直されたのはどこの誰でしょうかねぇ」
三日月「ふむ、さて・・・誰だったかな。
鶴丸ではなかっただろうか」
まるで覚えていないとでも言いたげな三日月。
・・・変なところでじじい振るのはいつもの事ですね。
三日月は私の隣へ腰を「よっこいせ」と降ろし、同じように桜を眺めた。