第21章 囚われの天使
それは思いの外近くから聞こえてきて、驚きながらそちらへと顔を向ける。
「…それ以上近くには」
深夜
「僕は君を殺したくない」
「………」
私の言葉を遮った深夜は更に距離を縮めると、自分の首元を晒してきた。
深夜
「飲むんだ」
「…嫌」
深夜
「嫌がるなら無理矢理にでも飲ませるよ」
「絶対に嫌」
飲ませようとする深夜と人間の血を飲みたくない私の攻防はしばらく続いた。
もう限界に近いこの体のどこにそんな力が残っているのか不思議なくらいだが、深夜のだけは飲みたくない。
気まぐれの様な形で助けた彼の命。
そんな彼は吸血鬼である私に甘えていいと言ってくれた。
「…飲まない」
4年ぶりに人の暖かさを思い出させてくれた優しい人。
そんな人を危険に晒したくない。
深夜
「なんで飲まないんだ!このままじゃ死ぬぞ!?」
五士
「深夜様…」
頑なに拒む私に初めて深夜が声を荒らげた。
周りの人が驚いている所を見ると、彼が声を荒らげるのは珍しいのだろう。
「…ダメなの」
それでも私は拒む事を選んだ。
「…殺したくない」
深夜
「僕は死なないよ」
「今は加減ができない…から、吸い殺しちゃう…」
飢えている今、1度吸い始めると途中で止めれる自信がない。
だからそれしか方法がないのに耐えていた。
深夜
「僕、言ったよね?」