第20章 力の制御
彼はいつも通り笑っていた。
でもその笑顔はいつもとは少しだけ違う。
いつもは人が良さそうにニコニコと、戦闘時は無邪気に笑っていた。
キ・ルク
「…ん?」
視線を感じたのか、キ・ルクと間近で視線が交わる。
その表情はどこか優しげで、友人や恋人に見せる様な柔らかさが感じられた。
「…そんな顔もするんだね」
キ・ルク
「はは、どんな顔だろうな」
そう言い終わると彼は私を解放する。
力が入らずに膝から崩れ落ちるが、そっと離されたのでダメージは無い。
クローリー
「アリス」
キ・ルク
「じゃ、俺行くわ」
私の傍にお兄ちゃんが来たのを確認し、彼はクルルが縛られている木の柱を地面から斬り離して担いだ。
キ・ルク
「次にお前の首を地下に埋めるのは俺だ」
フェリド
「あは、楽しみにしてますよ」
笑顔で手を振るフェリドに見送られてキ・ルクは去って行く。
その後ろ姿を見て緊張が切れた優ちゃんは、力が抜けて膝を付いた。
ミカ
「優ちゃ…」
グレン
「まだ声を出すな、キ・ルクが戻ったら終わりだ」
慌てて優ちゃんに駆け寄ったミカ。
それに対してそっとグレンが注意する。
優一郎
「はぁ…はぁ…」
静まり返るこの場で唯一聞こえるのは優ちゃんの荒い呼吸。
そんな優ちゃんの様子を見ながら人間達はキ・ルクがこのまま遠ざかる事を祈った。