第20章 力の制御
私の戦い方を覚えているのは想定していたが、私自身を覚えていたのは完全に想定外だった。
何故彼程の実力者が貴族とはいえ下っ端を覚えていたのか。
キ・ルク
「でも…」
「…!」
疑問に思ったが、キ・ルクがこちらに手を伸ばしてきたので思考が止まる。
キ・ルク
「これは知らないな」
「…っ」
彼は私の右目を縁取るように親指の腹でなぞった。
こちらは半吸血鬼が人間の血を飲んで完全な吸血鬼になった証として変色した方の目だ。
キ・ルク
「前は青紫みたいな色だったはずだ」
フェリド
「人間の血を飲んだ、それだけですよ」
キ・ルク
「………」
即座にフェリドが答えるが、その説明では無理がある。
私の両目が変わっているのならその答えで良かったが、生憎変わっているのは片目だけだ。
当然キ・ルクも引き下がらない。
キ・ルク
「何があった?こんなの俺でも見た事ない」
「長い間生きてる吸血鬼でも分からない、か…」
フェリドよりも長く生きている彼なら、片目だけ色が変わらない理由を知っているかもしれないと心のどこかで期待していた。
でもその期待は打ち砕かれてしまう。
キ・ルク
「自分でも分からないなら仕方ない」
「…ふぅ」
さすがに私自身も知らないと気づいて諦めたらしいので、これで私も解放されるだろう。
キ・ルク
「さっさと用を済ませるとしよう」
そう思ったが、彼の用はこれだけではなかった。