第18章 執着
それはもちろんフェリドではなくお兄ちゃんの為、そして優ちゃんとミカと一緒に暮らす為にだ。
だから私は殺す事を躊躇してはいけない。
「ふぅ…」
首の目の前にしゃがみ、短剣を充てがう。
サキラ
「…っ」
その瞬間、息を呑んだ事が分かる。
そんな彼女の瞳から怯えている事が伝わり、吸血鬼でも殺されるのは怖いのだと知った。
死にたがっている吸血鬼もいるが、フオラやサキラは違う。
「サキラ・ミアス、少しばかりですが慈悲です」
何故フェリド派閥の私達に殺されるのかも分からずに死んでしまったフオラと、今から殺されてしまうサキラ。
だから私は少しだけ心を軽くしてあげようと優しく声をかけた。
「そこにいるあなたの相棒フオラ・オントの傍で、同じ日に長き命を終わらせます」
これが私に出来るせめてもの情け。
彼女は冷静さを失い、目の前にあるフオラだった灰にすら気づいていなかった。
サキラ
「…フオラ」
私に言われて灰を見つめたサキラ。
サキラ
「あんたは本当に吸血鬼らしくないわね。そんな所が人間みたいで嫌いだった…」
「…おやすみなさい」
彼女の言葉にはあえて触れず、短剣を振り下ろす。
サキラ
「フオラ、ごめんね…」
その謝罪は何に対してなのだろうか。
人間らしいと言われても、気持ちに鈍感な私にはそれが分からない。