第2章 木の葉
「止めてよ!木の根っこなんか食べないわよ!もうこれから焼き肉だってのにテンション下がるったら…」
「下げたのはオメェだろうが。しかも結局食うのかよ。なら始めから黙って食え、メンドくせェ」
「しょうがないでしょ?アスマが奢るって言うんだから」
いのがツンと顎を上げる。
「何かいい事あったのかな。理由もないのに珍しいよねぇ。嬉しいから何だっていいけどさ」
能天気なチョウジにシカマルは眉根を寄せた。
「タダより高ェものはねぇぞ。ロクでもねェ用がなきゃいいけどな」
「ヤな事言わないでよ、折角の焼肉がマズくなるじゃない」
「…食う気満々じゃねえか。散々人に当たっといて何なんだ、オメェは…」
溜め息をついたシカマルが、フと視線を泳がせた。
見覚えのある人影が視界を掠めた気がした。
長いトンビの裾が翻って雑踏に紛れる。
「………」
居ない事もないかも知れない。しかし、用もなく訪れる人でもない。
「どしたの、シカマル?お腹空いた?」
「いや、腹は減ってるけど、そういう事じゃねえよ」
チョウジに苦笑いを向けて首の脇を掻く。
「浮輪さんを見かけた気がしたんだ。お前ら、見なかったか?」
いのとチョウジが顔を見合わせた。
「浮輪さんって、あの磯の?」
「見なかったけど…居たって不思議ないでしょ?薬事場の様子を見に来たのかもよ」
本草に明るい小さな隠れ里磯が、木の葉で一度散開したのはかれこれ一年前。その際数十人の磯人が木の葉に残った。彼らはひと所にまとまって居を構え、今は木の葉の薬事を担う仕事をしている。
だから、当時の磯長であり今の磯影でもある浮輪波平が、木の葉に顔を出すのは不思議な事ではない。事実今までにも数度、元の里人たちの様子を見に木の葉を訪れている。
が、浮輪自ら指名した木の葉の磯人の相談役たるシカマルに事前の連絡もなしの来訪は未だかつてない。
「…気のせいか」
呟いたシカマルの背中をいのがバンと叩いた。
「どっちだっていいじゃん。浮輪さんが来てるならどっちみちアンタと顔合わせない訳ないんだからさ」
「まぁ、多分な…」
シカマルは首を傾げて頷いた。
何かあったんじゃなきゃいいけどよ。
厭な予感がした。不意を突かれるのはロクでもない事の前兆だ。
考え過ぎならいいけどよ。