第9章 ヒナタ
「わかってるってばよ。もー何だよ。皆して保護者面しちゃってさ」
「下らない事を言うな。俺はお前なんか間違っても保護しないぞ。そんな真似しても寿命が縮まるだけで文字通り徒労、がっかりするだけだ」
「…がっかりするだけだじゃねえよ。何なんだおめーは。わざわざ俺を腐しに来たのかよ」
「ヒナタ様を迎えに来たに決まってるだろう。何でわざわざお前を腐しに夜道に繰り出さなきゃならないんだ。俺はそんなにお前が好きでも何でもない。全く話にならない事を言う奴だな」
「…そんな言い方…、にいさん…」
辛辣に言うネジにヒナタが情けない顔をする。ナルトはまた頭の後ろで手を組んで、チェッと舌打ちして踵を返した。
「いいよいいよ。俺だって暇じゃねんだってばよ。もう帰って寝る。じゃあな、ヒナタ」
「な、何かごめんね、ナルトくん…」
口元に拳をあててヒナタがおろおろと言う後ろから、ネジがナルトに声をかけた。
「遠回りさせて悪かったな。気を付けて帰れよ」
ナルトが振り返って、ヘヘっと鼻の下を擦りながら笑った。
「気にすんなってばよ!お前らも気を付けてな。おやすみ!」
「…お、おやすみなさい…」
胸の辺りで小さく手を振って、ヒナタは溜め息を吐いた。ナルトの後ろ姿が月明かりの夜道で見送りやすいのが嬉しい。
「アイツ、自来也様と修行に出たと聞いていたが、何故ここにいる?」
呟いたネジに、ヒナタは首を傾げた。
「…薬事場に磯の里の人たちが来ると言っていたから、もしかしてその関わりでかも」
「…磯が薬事場に…?」
ヒナタの零した小里の名にネジが眉をひそめる。
「何故また磯が木の葉に?散開で寄居していたときと今では状況が違うだろう」
「……」
顎に手を添えて考え込むネジに、ヒナタは口を引き結んだ。何か引っ掛かっているらしいが何に引っ掛かっているか聞けないのがもどかしい。日頃から饒舌ではないネジだが、任務に関わる事ならばまして軽々しい話をする訳がない。状況に依っては口を噤まねばならないのがネジやヒナタに限らない皆の務めだから、ヒナタは黙って足を止めたネジを見守った。
「…風が」
フとネジが顔を上げる。言われて気付けば、確かに冷えた風が吹き始めていた。見上げた月に雲霞が掛かり出している。