第9章 ヒナタ
もっと自由に出来たらいいなと思う。自由に気持ちを表して、はにかまず素直にいられれば、どんなに伸び伸びした気持ちになれるだろうか。
「あ」
物思いしながら歩いていたせいで立ち止まったナルトの背中にぶつかりかけたヒナタは、ビックリして体を竦めた。
「よお、ネジ」
バクバクする胸を押さえてまたも赤面したヒナタは、ナルトが口にした名前に目を瞬かせた。
「ナルト。お前、この刻限にヒナタ様を連れ回してどういうつもりだ」
聞き慣れた従兄弟の気難しい声がする。
「連れ回してなんかねえよ。シカマルんとこでボーッとしてたから送って来たんだ」
ナルトがムッとして答える。
ヒナタはおずおずと前に出て、ネジとナルトの間に入った。
「ナルトくんは送ってくれてるだけなの。ごめんなさい。ネジ兄さん」
ネジの整った顔が蒼く見えるのは、月明かりのせいだけではなく、自分が心配をかけたせいだとわかる。
「…心配かけて、ごめんなさい」
「そんなに謝る必要はない。あなたも子供ではないのだから、そう心配した訳じゃな…」
表情を和らげて笑いかけたネジに、口を尖らせたナルトが突っ込む。
「なくねーだろ?ホンット過保護だよなー、ネジはさ」
ネジは眉根を寄せて苦笑いした。
「ヒナタ様は大事な身の上だから…」
そんな事ないと言いたかったけれど、言えなかった。色々考えると言えなくなってしまう。だから逃げてしまう。良くないのはわかっているのに。
「兎に角帰ろう。皆心配している」
「…はい」
ヒナタはナルトを振り返って、はにかんだ。
「ありがとう、ナルトくん。…ごめんね」
「何で謝んだってばよ!気にすんな!こんなん帰り道だし」
「…お前のうちは逆方向だろう?引っ越したのか?」
調子よく応えたナルトに、ネジが突っ込む。
「細けえ事言うなよ。いいだろ、俺ンちがどっちにあったって」
「ふふ…」
好きだな。ナルトくん。
色んなとこが好きだな。
「あの…じゃあ…。送ってくれて、あ、ありがとう…」
名残惜しい気持ちでナルトから離れ、ネジに歩み寄ったヒナタの背中をナルトの声が追う。
「おう、またな!」
「お前も能天気に寄り道などせずにさっさと帰れよ」
ヒナタが口を開く前にネジがスパンとナルトに釘を刺した。ナルトは口をひん曲げて腕を組んだ。