第9章 ヒナタ
なのに、自分自身が思うように行かない。
「今日はさ、月が明るくて良かったな」
気が付くとヒナタはナルトの二歩後ろを黙念と歩いていて、いつ別れを告げたのか、シカマルと伊草の姿が見えないところまで来ていた。
前を行くナルトは頭の後ろで手を組んで、夜空を見上げている。
「ひとりで歩いてても明るきゃ寂しくないもんな」
確かに今日は明るい夜だ。月影が黒くナルトとヒナタの形を道に容どっている。真暗い夜道を行くよりは寂しくはない。
でも。
と、ヒナタは思う。
白い月が明るくて星が見えない夜空を見上げ、そっと、独り言のようにナルトに応えた。
「…寂しくないかな…?」
「え?」
ナルトがくるっと振り返る。ヒナタはビクッと足を止めかけて、両手を握って口元にあてた。
「あ、あの、あんな広いところに、ひとつきりじゃ、月が、さ、寂しいんじゃないかと思ったの…。…星もあった方が、寂しくないんじゃないかなって…」
つかえつかえ言うと、ナルトは不思議そうにヒナタを見て、それから朗らかに笑った。
「へえ。ふぅん…。…うん。そうだな…。その方がいいかもな!」
「ご、ごめんね、変な事言って…」
「バッカ、何で謝んだってばよ!いー事言うじゃん。いいじゃんいいじゃん」
また空を見上げてナルトは楽しそうな顔をした。
「そっか。いくら明るくたって、ひとつきりじゃ寂しいかもな。俺なんか、そんなん考えた事もなかったってば。ヒナタすげーな!」
「そ、そんな…。そんな事ないよ…」
常と変わらないナルトの、裏表なくただポンと投げ出すような率直な物言いに、ヒナタは耳まで赤くなる。
やっぱりナルトくんが好きだと思ったら、ますます顔が熱くなった。こんなどうでもいい事をナルトにぽつりと零せたのが、恥ずかしいけれど嬉しくなった。
「ヒナタはさ、もっとそういう事いっぱい言ったらいいんだって。面白いからよ!」
…面白い、とは、少し違う気がするけれど、そうかな、と、じんわり思う。ナルトの言葉はゆっくり何時までもヒナタに纏い付いて、不思議と気長に気持ちを解してくれる。それなのに、誰といるよりぎこちなくなってしまうのが困る。誰より沢山伝えたいし、わかりたいのに、本当に自分は不器用だと思うとしゅんとなって、ますますぎくしゃくしてしまう。