第9章 ヒナタ
「うん。磯の人がまた木の葉に逗留するんだ」
「何かあったの?」
ヒナタの問いにシカマルが答える。
「磯は元々動き回る里だろ?何かあったとか何とかじゃなくよ。木の葉に居ついた薬事場の連中と久方ぶりに会いたくなったんじゃねえの?波平さんはともかく、他の磯人は木の葉に顔出すなんて滅多にないからな」
ナルトが余計な事を言う前にと、口早に告げて頭を掻く。ああ、メンドくせえ。
「波平さんも木の葉に来るの」
ヒナタは波平の気に入りでもある。あの飄々とした感じで顔を合わせる度頓着なく話しかけるから、いつの間にか人見知りのヒナタも波平に比較的慣れて、割によく話をする。
「まあ、兎に角そこらは明日以降の話だ。今日んとこはもう家に帰れよ。あんまりうろうろしてると家の人やネジが心配するだろ」
シカマルに促されてヒナタはちょっと眉根を寄せた。
その家とネジの事で揉めて飛び出して来たのだから帰り辛いのに、そう言うのも気の小さなヒナタには憚られる。
ネジと較べられるのは今に始まった事ではないが、最近はその比較の内容が以前とは変わって来た。日向の跡取りとしての技量ではなく、その、気持ちの微妙な部分を突かれる様になって来たのだ。
ネジは女子にも男子にもモテる。愛想はよくないが、人望があり人を惹きつけるところがある。
次代を担う立場としてヒナタもネジを見習い、もう少し自覚を持って振る舞うべきではないか。
つまり、人見知りを克服しなさい、もっとオープンに人と付き合いなさいと言う事なのだろうが、そんなの一朝一夕に何とかなる訳がないし、ヒナタ自身悩んでいるところをあからさまに突かれると居たたまれなくなる。
悩んでいるのだ、ずっと。
もっと上手く人と付き合えたら、もっと上手く淀みなく自分の意見を言えたなら。
今だって、ナルトを前にはにかんでしまう自分がじれったい。
サクラやいののように気軽に話せたらどんなにいいだろう。楽しいヤツとナルトに思われるようなやり取りが出来たら、どんなに嬉しいだろう。
家で皆が心配しているのもわかっている。何で家族にさえ思った事をちゃんと伝えられないのだろう。逃げ出さないで話せばいいのに。
家族が変わったのか、自分が変わったのか、それとも前には見えていなかったものが見えて来たのか、話せば聞いて貰える、理解しようとしてくれているのが今はわかる。