第9章 ヒナタ
「このおっさんは、伊草ってんだ。こんな顔してるけど、いいおっさんだからよ、怖がんな」
初見の相手に屈託なく話しかけられて怯んだヒナタへ、ナルトがにかっと笑って見せた。
「これからしばらく木の葉にいるからよ、仲良くしてやってくれよな!」
「何だ、そりゃ。オメェは伊草さんの保護者かっつうの」
ナルトの言い様にシカマルが苦笑いしたが、当の伊草はにこにこと厳つい顔に人好きする笑顔を浮かべるのみ。
「じゃ、ナルトを頼むぞ、ヒナタ。寄り道しねえでちゃんと帰れよ」
シカマルに言われてヒナタは目を瞬かせ、ナルトが口を尖らせた。
「何だよ。送ってくのは俺だぞ。何でヒナタに俺を頼まなきゃないんだよ。シカマルこそ俺の保護者かっての」
「あーあー、わかったよ。悪かった悪かった。いいから早く帰れ。メンドくせぇな」
シカマルはこれから伊草と話がある。客舎にシカマルが留まる事も考えたが森の守りを務める奈良に伊草が深い興味を寄せたので、暫定的に家に迎え入れる運びになったのだ。
間違いなく母に怒鳴られ、父に面倒がられようが、仕方ない。薬事場の世話役は磯の散開から継続してシカマルの仕事であるし、伊草は牡蠣殻や波平と因縁浅からぬ縁の者だ。全ての内情を父母に話すのは五代目に任すとして、ここ数日伊草と付き合ってみるのはシカマルにとっても無為にはならないだろう。
草について知りたい。磯、いや、元は磯人であった木の葉の民が薬事場で営んでいる日常を滞り無くするのがシカマルの役目だ。
草は胡乱。
実態はわからないうちに決め付けるのは剣呑だが、用心が必要なのに変わりがない。ましてや波平や伊草の語った事が本当であれば、いよいよ油断ならない里と思って間違いない。
その草の中核に居た男と話が出来るのであれば、得るものは大きいだろう。無論、油断は禁物だ。シカマルは、いや、恐らく五代目と自来也も伊草の言葉を額面通り受け取ってはいないと思われる。だからこそ伊草とダンゾーと接触させなかったのだろう。
とは言え、ダンゾーに伊草の存在が知られぬままですむものではない。
「薬事場にさ、人が増えんだってばよ」
ナルトがヒナタに話している。
ヒナタは薬事場の若い男に人気がある。磯の男はヒナタのような女の子がタイプらしい。たまに用で顔を出すヒナタは、密かにアイドル扱いされていた。
「薬事場の人が増える?」