第9章 ヒナタ
赤い林檎が綺麗だ。
明るい昼に見る林檎も綺麗だけれども、ヒナタは空気が水気を帯びる夜明けと夕暮れの林檎を見るのが好きだ。赤い色が、透き通って見える。
夜更けた今時分にこの実を見るのは初めてだが、今日は月が明るいからまた違う美しさがあって、ヒナタはホウッと林檎に見惚れた。
生や菓子で食べるのも好きだけれど、木になっている林檎を見るのが一番好きだ。
木の葉では林檎の木を見かけない。が、奈良シカマルの家には何故か実のなる木がよくある。鳥や獣が喜びそうな。
「ヒナタ?」
フと名を呼ばれて、ヒナタはビクッと肩を竦めた。
そろそろと振り返れば、果たしてシカマルの姿があった。
「こんな時間に何うろうろしてんだ。ここらはあんま人通りもねえからな。危ねえぞ」
勢いで家を飛び出して、気付くと奈良家の庭先に立っていたのだ。何と答えようかと逡巡する。
「しょうがねえな。送ってってやるよ。おい、ナルト?」
シカマルが口にした名前にヒナタはひゃっと竦み上がった。
シカマルの後ろから、見慣れたナルトとついぞ見かけた事のない大柄な男が顔を出す。
「あれ、ヒナタ。何してんだ、こんなとこで」
ナルトがキョトンと言うのにシカマルが仏頂面をした。
「こんなとこで悪かったな。人ンちの前で失礼な事言ってんじゃねえぞコラ」
「だってここらへん、スゲー寂しいじゃん。女子が暗くなってからひとりでうろつくとこじゃねえってばよ」
悪びれもせずに辺りを見回し、ナルトはヒナタに視線を戻した。ヒナタは真っ赤になって俯いた。
シカマルが二人を見比べて、やれやれと頭を掻く。
「送ってってやれ。俺は伊草さんと色々話があるし」
ナルトが送ってった方がいいだろ、ヒナタは。
シカマルの内心が聞こえて来るようで、ヒナタは顔から火が出る思いがした。
「何とまあ初な女子よな、もし」
野太い声は、見知らぬ男のものだろう。思いの外優しげな話し方をする。
「今時珍しやかな、な?木の葉の女子は慎み深いの」
「ヒナタは特別なんスよ」
シカマルが苦笑して答えた。
「珍しくも何ともない喧しいのがいっぱいいますよ、木の葉にも」
ぽっといのの顔を思い浮かべてシカマルは頭を掻いた。ナルトはナルトで大方サクラの事でも考えているのか、腕組みしてニヤつきながら頷いている。
「そうかえ。段々に知り合えたらば嬉しいの」