第6章 空の青さを知れど海の蒼さを知らず
「あ?けど牡蠣殻が汐田の叔父貴じゃと言っとったぞ?ん?汐田の名は騙りじゃったな。なら牡蠣殻の叔父貴か?何だ?どっちだ?」
「磯に牡蠣殻の親しい身内はありません。あれの家系は家族も含め、あちこちに散らばっている。もとからそういう師族な上、散開で更に磯から数が減りましたから。汐田にも高齢の叔父はいない。どちらにしてもこの人は磯人ではありませんよ。大体この私が見覚えていない磯人などいませんから」
波平に断言されて伊草が居心地悪そうにモゾモゾと体を動かした。
「じゃ、何者よ、この爺は」
呆れ顔をした自来也の陰で綱手がふっと思い付いたように洩らした。
「…草か?」
波平と綱手の目が合う。同じ事を思っていた波平は眼鏡を直して伊草の方へ一歩踏み出した。
「牡蠣殻は草に居た」
杏可也の庇護下にあっただろう。功者の牡蠣殻が杏可也の元に留まったのには意味があって然るべき。
そして今になって、この妙な道連れと共に現れたのにもまた何か訳がある筈だ。
「牡蠣殻が我からあなたを連れて草から出たのだとすれば、あなたは諸々の事情を知っているんじゃないですか?違いますか?どうです?」
「あいつらに給茶を頼んだのは正にそこだ。牡蠣殻は本当に為蛍を殺したのか?ならば何故すぐビンゴブックに載らなかった?今になってビンゴブックに載ったのはどういう訳だ?彼らに牡蠣殻の探索を頼むに当たり、はっきりさせておきたいんだ。牡蠣殻は冤罪を被ったのか、それとも本当に罪を犯したのか」
綱手が波平と伊草を見比べながら言った。
「…五代目…。牡蠣殻を探索とは……」
波平が顔を強張らせた。
伊草が探るように波平を見る。
「私は元々牡蠣殻に用があったんだ。いや、磯影が懸念するような用向きじゃない。ただ、もし牡蠣殻にその気があるのなら、木の葉で引き受けてもいいと思っている。牡蠣殻は市井の磯人に思いの外慕われていたようだな?シカマルを助けて薬事場を束ねて貰えれば助かる」
「…五代目。それは有り得ません」
「目くじらを立てるな、三代目。決めるのは牡蠣殻だ。お前じゃない」
穏やかに言い放った綱手に波平が黙り込む。
「だから、勿論牡蠣殻が磯に戻る事も有り得るし、全く別の道を行く可能性もある訳だ。けれどこうなる前から私も牡蠣殻を探していた。な、自来也」