第6章 空の青さを知れど海の蒼さを知らず
物思いしながら波平は二の句を次いだ。
「…奈良くんもまた然りで。木の葉は良い里だ」
茫洋として本心を隠すのに慣れきった波平は、深く考え込みながら不自然なく裏腹な話をする。
これは影向きと言えなくもないな。
施政には便利な悪癖だ。しかし惜しむらくはそれに見合う謀略の計がとんとない事かな。
全くの昼行灯だ、私は。
「磯は物静かな者が多いからな。シカマルは兎も角、ナルトのように喧しいのは物珍しいだろう」
綱手が可笑しそうに言う。
「確かに磯人は口は達者だが大人しい。彼のように陽気な者はいませんね」
「あら陽気なんていいモンじゃないわ。能天気で喧しいったらありゃせん」
口をへの字にした自来也が首を振り振り渋い顔をする。それを横目に綱手がほろ苦く笑った。
「能天気か…」
「…ま、あれにゃあれなりの悩みもあろうがよ」
綱手の様子を受けて、自来也が気まずげに盆の窪を撫でる。
波平は目をすがめて二人を窺い、何心なげに真暗くなった窓の表を見やった。
歯に絹着せぬいつもの歯切れがない。…意味有りげな…。
「して、若いのを追い出して何の話がしたいんだえ?あのコらのおらんうちに言うておきたい事があるんじゃないのえ、もし」
不意に伊草が割り込んで来た。これまで黙って周りに耳目を澄ませていたが、これが切りと居住まいを変える。
「主が五代目火影か。うん、成る程綺麗な影じゃわいな。木の葉は果報な事だえ」
「ふん。口の減らない爺だ。流石磯の年寄りだな」
鼻を鳴らした綱手の言葉に波平の目が窓表から離れた。三人を訝しく見回して瞬きする。
「磯の年寄り?誰がです」
綱手の卓に行儀悪く腰掛けていた自来也が、腕組みの隙から手甲をもたげて伊草を指差す。
波平は決まり悪げににやりと笑った伊草をしげしげと眺め、首を振った。
「この人は磯の里人ではありません」
「あ?けど牡蠣殻が汐田の叔父貴じゃと言っとったぞ?ん?汐田の名は騙りじゃったな。なら牡蠣殻の叔父貴か?何だ?どっちだ?」
「磯に牡蠣殻の親しい身内はありません。あれの家系は家族も含め、あちこちに散らばっている。もとからそういう師族な上、散開で更に磯から数が減りましたから。汐田にも高齢の叔父はいない。どちらにしてもこの人は磯人ではありませんよ。大体この私が見覚えていない磯人などいませんから」