第6章 空の青さを知れど海の蒼さを知らず
内心首を傾げて波平はナルトから視線を反らした。
「俺は将来火影になるんだ!」
勢い良く言い放つナルトは、矢張り素直で元気な少年にしか見えない。
「だからさ。今からよろしく言っとくな、磯影のおっちゃん」
ナルトは至極真面目だ。だから、波平も真顔で返した。
「成る程。覚えておきましょう。私は三代目磯影、浮輪波平と申します。君の名を聞いてもいいかな?」
「おれはうずまきナルト!忘れんなよってばよ、浮輪のおっちゃ…ぁだだだだだッ!」
自来也に耳を吊り上げられてナルトが手をバタつかせた。
「誰が浮輪に絡めと言ったかよ!?早くお茶を淹れて来んか!おいコラ、奈良の!とっととコイツを連れけ!」
「あー、はい、わかりましたよ…。おいナルト。行くぞ」
「ぃだー。チクショウッ、後で覚えてろよ、エロ仙人!」
「喧しい!そんなん聞き飽きたわ!後で後でって後が詰まっていちいち覚えとられるか、バカ!」
「そりゃ年のせいだってばよ!ボケて来ちゃってんだよ、エロ仙人」
「エロエロ言うな!言われんでもわしがエロい事くらいわしが一番よくわかっとんじゃ、ぶっ飛ばすぞ、くそガキ」
「俺はガキって言うな!俺はナルトだってばよ!」
「いいから行くぞ。メンドくせーな、たくッ」
シカマルがナルトを手招きした。
「そうじゃ、早く行け、カマボコ」
「カ、カマボコ!?」
自来也に舌を出されてナルトは目を三角にした。腕まくりしながらエロ師匠に向かって踏み出す。
「話が進まねえ!いいから来いって!」
シカマルが一喝してブツブツいうナルトを従えて室を出て行った。
「…如何にも木の葉の子らしい子ですね。火影になりたいというのも宜なるかな。健やかだ」
二人を見送って波平が薄く笑った。
脳裏を何もかもが細長い、師殺しの男の姿が掠める。彼もまた、影になりたがっていた。
次いで美しく着飾った姉の姿が浮かぶ。彼女もまた、ある意味影になりたかったのかも知れない。
あの子に比べれば、暗さが付き纏う影への希求。
木の葉と磯を引き比べても詮無い。
そうは思っても無力感から滲んだ苦味が胸を締め付けた。息苦しくなる。
磯辺。不甲斐ない私を叱ってくれないか。