第6章 空の青さを知れど海の蒼さを知らず
「そんなに?マジで?俺なんか全ッ然臭わねえけどなぁ」
「そらオメェの鼻がとっくに麻痺してるからだ。おい、マジくせぇぞ、ちょっとあっち行け」
波平の近く、壁際に一歩動いてシカマルが鼻にシワを寄せた。
それを見咎めた伊草が首を降る。
「まあそう言わんでの。この臭みは大蒜が己が身を守る為の一助なんだえ?いじらしかろ?喰らわれんように汁が臭うのよ。臭うと共にこの汁には殺菌作用もあってな、外敵に鱗茎を傷付けられたとき、相手を辟易させた上に我を治療する。合理的で理に適っとろう?人がこの香に食欲さえ覚えねば、まんまと大蒜の思う壺であったのにの」
波平が眉を上げる。シカマルにニコニコと笑いかける伊草を目をすがめて見やった。
「林檎でなくとも緑茶はあろう?大蒜は腹だけ臭うのと違うでの。食うたらすぐに体を巡って臭いよるんえ。だから呼気を司る肺が臭うてしまう。林檎は固形じゃで、消化して体に周るまで時間がかかるわい。液の緑茶を呑んだ方が効きは速かろ。お茶はあるかえ?」
綱手にお茶をねだる様な事を言う伊草に波平が眉をひそめる。
「そこまでお詳しいのなら何故食中に茶を喫されなんだ?一緒に摂るのが一番効きましょう」
「ラーメンが熱いんじゃもの。冷たい水が欲しくなるわいな、もし」
「茶を冷やして喫されたらよろしいでしょう」
「ないものをねだる訳にもいくまいよ。わちは弁えのない我が儘者ではないえ。さてはそこな御方はラーメンを食うた事がないのではないかいの、もし」
「ありませんよ。それが何か?」
「そりゃいかん!いかんいかん!是非にも食うてみるべきだえ?ナルト、早速この眼鏡の御方を一楽へ案内して……」
「下さらなくとも結構。五代目、申し訳ありませんが茶器をお貸し下さい。お茶を淹れさせて頂きたい」
癇性の筋を立てた波平に綱手は伊草をチラリと窺いながら頷いた。
「茶くらいうちで出す。磯を束ねる客分のお前に給茶させては流石に気が咎めるからな」
磯の名を聞いて、伊草がフッと顔色を変え、居住まいを正した。
慎重な目付きで改めて舐めるように波平を眺め渡す。
「俺がやりますよ」
不意にシカマルが手を挙げた。
「緑茶を淹れりゃいんでしょう?」
「ならば奈良くんに手伝って貰おうか。五代目、無粋ながら給茶をお赦し頂きますよ。私はこれで鼻が鈍い方ではありませんので」