第1章 拾い物
「あ?あぎ…ッ!」
無防備に半口開けて顔を向けたナルトの口に、自来也は指で掬い上げた塩を突っ込んだ。
「ぅわ…ッ、ぺッ、な、何すんだ、このエロバカ仙人!しょ、しょっぺーぞ⁉何だってばよ、これ⁉」
「はん。成る程塩だなえ」
納得した爺が頷くのを見て、自来也は舌打ちしながら竹筒に塩を注いで振った。
「通りすがりに毒なんか盛るか。草じゃあるまいしよ」
爺がムッとしたようにあまり迫力のない団栗眼で自来也を睨んだ。
「草の者はそうも杜撰な真似はせんぞな、もし。おかしげな事を言うたらいかぬ」
「草懐中に毒有りってのはよく聞くがの。アンタ草のもんか」
眉を上げて爺から女を引き取り、口元に竹筒をあてがうとナルトが首を傾げた。
「草に毒って何だ?毒草の話?」
「そっちの草じゃねぇ草の話だ。ややこしくなるから黙ってろ」
「このガリガリの人、毒呑んじゃったのかよ?塩水なんかで何とかなんのか?」
「……」
ナルトの言葉に自来也は爺をじっと見た。爺がまた目を伏せる。
「そうなのか?」
「あ、いや…」
言い淀んだ爺から目を逸らし、改めて竹筒を口にあてがおうとしたそのとき、腕の中の女が目を開いているのに気付いた。
「毒と言える様な毒は呑んでいません」
カサカサの唇からいやにハキハキした声が出た。低く掠れて入るが明瞭。だが、今ひとつ腑に落ちない言い回しをする。
「い、いそ…」
声を上げかけた爺を笑顔で制して、女は自来也を見据えた。
「呑まず食わずで参ってしまっただけです」
「…何か元気そうじゃな」
拍子抜けした自来也に、女はカクンと頷く。
「はい、大丈夫です。ただ宿をとるには少し不自由です。見ての通り身体の方が心許ない塩梅ですので。連れは世間知らずで宿のとり方を知りません。出来れば、宿まで同道頂いて手続きだけでもして下されば大変助かります」
流れるようにテキパキと告げて、不意にまた目を閉じる。
「お、おい?」
静かに揺すると頭がガクリと垂れて、首元からシャラと金属の擦れる重たげで涼しい音がした。
女は身じろぎしない。
また意識をなくしたようだ。
「おいおい、何なんじゃ一体」
「飯食ってねェんじゃ塩水どころじゃねえよ⁉一楽連れてこうぜ、一楽!」
「しょうがねえのう…」
自来也は溜め息をついて女を背中に担ぎ上げた。